トリエント公会議

トリエント公会議（1545年～1563年）は、カトリック教会が宗教改革の進展に対抗し、自己改革を促すために開催した第19回公会議です。教皇パウルス3世によってトリエント（現在のイタリア・トレント）で召集され、教皇ピウス4世のもとで閉幕しました。プロテスタントの宗教改革に対するカトリック教会の立場を明確にし、カトリック教会の刷新と自己改革を推進する原動力となりました。

歴史

公会議の開会まで

宗教改革の先駆者であるマルティン・ルターは、当初カトリック教会の改革を求めていました。ルター自身も公会議の開催を要求していましたが、当時は公会議主義と教皇首位説の対立があり、教皇側は公会議の開催に消極的でした。しかし、カトリック教会内部の停滞と宗教改革運動の高まりを受け、教皇パウルス3世は神聖ローマ皇帝カール5世の協力も得て、公会議の開催を決断しました。当初はマントヴァが開催地に選ばれましたが、フランスの反対により、神聖ローマ帝国領のトリエントが新たな開催地となりました。

公会議の流れ

1545年 3月15日に始まった公会議は、断続的に会期を重ねました。最初の会期はシュマルカルデン戦争の激化により一時中断し、その後、伝染病の流行によっても中断しました。第2会期は、ルター派のザクセン選帝侯モーリッツがカール5世に勝利したことで中断を余儀なくされました。10年間の長い中断を経て、教皇ピウス4世の尽力により第3会期が開始されました。この会期では、ジョヴァンニ・モローネ枢機卿の主導のもと、カトリック教会の改革や秘跡、聖伝の扱いが議論され、1563年に公会議は閉幕しました。最終的に公会議文書に署名したのは255人で、その3分の2はイタリア出身でした。スペインからは、サラマンカ学派の神学者たちが代表団に選ばれ、理論面でカトリック勢力の再建に貢献しました。

公会議の議題

公会議の初期の目的は、プロテスタントとの決定的な分裂を避け、妥協点を見出すことでした。第2会期では、プロテスタントの代表者をオブザーバーとして招き入れました。しかし、最終的にはカトリック教会が自らの教義を再確認し、プロテスタントの主張との違いを明確化する結果となりました。主な議題は、カトリック教会の教義の再確認とプロテスタントの主張の排斥、そして教会の自己改革の2点に絞られました。

公会議の決定

公会議では、多くの議題について決議がなされました。まず、カトリック教会の教義を再確認する意味で、ニカイア・コンスタンティノポリス信条が再確認され、ルターが聖書から省いた第二正典が正典として認められました。また、「聖書のみ」とするルターの主張を退け、聖書と聖伝が教えの拠り所であること、ウルガータ訳がカトリック教会の唯一の公式聖書であることが決議されました。さらに、義化の問題については、「救いは恩寵のみによる」というプロテスタントの主張に対し、恩寵が義化の根本であることを認めつつも、人間の自由意志による協働にも意義を認めました。

七つの秘跡についても議論が重ねられ、聖体の秘跡の重要性が強調されました。パンとワインがキリストの体と血に変わるという実体変化が確認され、ゆるしの秘跡、叙階の秘跡、婚姻の秘跡などについても明確な形が示されました。教会改革については、司教の定住や独身制の厳格化、神学校の設立など聖職者の世俗化を防ぐための対策が決定されました。贖宥状の販売や金銭取引は禁止されましたが、贖宥の意義は保持され、聖人や聖遺物の崇敬、煉獄や諸聖人の通功といった教会の伝統に由来する教義も有効なものと認められました。

公会議後の動き

公会議では、禁書目録の制定、カテキズム書、聖務日課、ミサ典書、ウルガータ訳聖書の改訂が教皇に委ねられ、後に実施されました。公会議はすべての教令に対する教皇の承認を求め、教皇はこれを承認し、全世界の教会に受け入れるよう布告しました。また、教皇は決議事項の実施のために枢機卿委員会を任命し、公会議文書を出版し、各国に配布しました。

トリエント公会議は、カトリック教会の教義を再確認し、教会を刷新するための重要な会議であり、20世紀の第2バチカン公会議に至るまで、カトリック教会の方向性に大きな影響を与え続けました。次の公会議は、300年以上後の第1バチカン公会議になります。

出典

* The Council of Trent （英語）

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