悪麗之助

悪麗之助（あくれいのすけ）

悪麗之助は、1902年 11月25日に大阪で生まれ、1931年 10月26日に京都で亡くなった日本の映画監督、脚本家です。本名を金田茂男といい、陸大蔵、阿久礼之助、竜造寺淳平などの別名でも活動しました。28歳という若さでこの世を去りましたが、その短い生涯で多くの作品を手掛け、昭和初期の無声映画界に大きな足跡を残しました。アナキスト的な思想を持ち、作品にもその影響が見られます。

生い立ちと初期のキャリア

幼少期に実母を亡くし、父親の死後、裕福な叔父である樋谷弁治に引き取られました。叔父は伊藤博文の護衛官を務めた警察官で、その支援のおかげで悪麗之助は大学または旧制高校まで進学することができました。在学中から脚本家としての活動を始め、1924年には牧野省三に抜擢され、22歳で『超現代人』の脚本を手掛け、脚本家としてデビューを果たしました。

映画監督としての活動

その後、東亜キネマを経て、帝国キネマに移籍。1925年には、古海卓二監督と意気投合し、『崇禅寺馬場前篇』で映画監督としてデビューしました。この時、竜造寺淳平名義で監督を務めました。その後、悪麗之助名義で監督した『長脇差』など、多くの作品を監督しました。一時はマキノに戻り、その後、阪東妻三郎プロダクションに移籍。阪東妻三郎主演の『無明地獄』を陸大蔵名義で監督し、鬼才として注目されるようになりました。

1927年には、阪妻・立花・ユニヴァーサル連合映画で『狂乱星月夜』や『閃影前篇』を監督。その後、大阪港パーク撮影所や河合映画町屋撮影所を経て、1928年には直木三十五が始めたツキガタ・プロタクションに参加。月形龍之介主演の『敵討破れ傘』や『救ひを求むるもの』などの異色時代劇を手掛けました。1929年には、市川右太衛門プロダクションで『野良犬』や『冷眼』を監督し、1930年には松竹下加茂撮影所に移籍し、月形龍之介主演作を多く監督しました。

晩年と死

松竹下加茂撮影所では、『弥藤太昇天』など月形龍之介主演作品を次々と監督しましたが、その間に愛児を交通事故で失うという悲劇に見舞われました。1931年には『紅蝙蝠第一篇』を監督しましたが、肺結核が悪化し、脚本執筆に専念。井上金太郎や二川文太郎といったかつての仲間たちの作品の脚本を多く執筆しました。同年10月26日、肺結核のため京都で死去。28歳という若さでした。臨終の際には、友人たちに囲まれ、月形龍之介は「悪のやつ、最後までパンをして逝きよった」と語ったと伝えられています。

悪麗之助は写真嫌いであったため、残された写真は少なく、葬儀の際には友人が描いた似顔絵が遺影として使われました。亡くなる前の年に交通事故で二人の子供を亡くしており、そのうちの一人は前妻の子、もう一人は女優の鏡淳子との間にできた子供でした。鏡淳子とは再婚でしたが、入籍はしていませんでした。死亡届は同居していた書生の吉田春吉が提出しましたが、この人物の経歴は一切不明です。

作品の現存状況と評価

長らく悪麗之助の監督作品は現存しないとされていましたが、2009年に『荒木又右衛門』の短縮版が発見され、現在では大阪芸術大学が所蔵しています。脚本作品としては、『戦国時代』や『唐人お吉』などが現存しています。悪麗之助は、その短い生涯の中で、映画監督、脚本家として多くの作品を残し、日本の映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、その独特な作風とアナキスト的な思想から、今日でも多くの映画ファンに愛されています。

主なフィルモグラフィ

脚本家時代
1924年：『超現代人』、『或る兄弟と城主』、『茶人木阿弥』、『戦国時代第一篇』、『戦国時代第二篇』
1925年：『戦国時代第三篇』、『行路』、『近藤勇』、『三人の道化者』、『有刃無刃』、『関東侠客伝剣豪無双の巻』

監督時代
1925年：『崇禅寺馬場前篇』、『長脇差』、『追はれ行く人』、『剣戟』、『恋を賭けた武士』、『徳十と仙吉』
1926年：『鋳掛松捕縛』、『無明地獄』、『蜘蛛』
1927年：『狂乱星月夜』、『閃影前篇』、『彼は復讐を忘れたか』
1928年：『ふくろう組』、『敵討破れ傘』、『救ひを求むるもの』
1929年：『やくざ者』、『野良犬』、『海賊船』、『冷眼』
1930年：『弥藤太昇天』、『馬の脚』、『荒木又右衛門』、『弥次喜多はしご道中』、『疵高倉』
1931年：『紅蝙蝠第一篇』

末期の脚本家時代
1931年：『血煙一番槍』、『彼は復讐を忘れたか』、『紅蝙蝠第二篇勇躍血戦の巻』、『河童又介』、『紅蝙蝠第三篇血涙戸並長八郎の巻』、『馬頭の銭化粧菩薩の巻』、『かごや大納言』、『馬頭の銭黄金乱舞の巻』、『忠弥行状記』、『唐人お吉』