愛の処刑

『愛の処刑』の概要

『愛の処刑』（あいのしょけい）は、三島由紀夫が榊山保という名義で発表した短編小説です。この作品は1960年10月に公開され、ギリシャ研究や男性同性愛をテーマにした「アドニス会」の機関誌『ADONIS』の別冊『APOLLO（アポロ）』第5号に収められました。作品は切腹死を劇画風に描き、愛する者に見守られながらの自らの命を絶つ姿を通じて、自己犠牲や愛の深さを表現しています。さらに、この内容には、エロス（愛）とタナトス（死の美）という二つの対立するモチーフが巧みに組み込まれており、三島の後の作品『憂国』（1961年）との共通性が見て取れます。

作品について

この短編小説が三島によるものかどうかは当初論争がありました。彼の元原稿に基づいて、榊山保という名の作家が第2次原稿を執筆し、それを三島が確認したという経緯があるものの、元原稿は初めは発見されていませんでした。しかし、2005年に中井英夫の家から発見された大学ノートが、三島自筆のものであると認識され、元原稿とされるようになりました。このノートには、主人公の名前が「大友信二」と記されていますが、初出雑誌『APOLLO』では「大友隆吉」という名前で紹介されています。

あらすじ

物語は、中学体育教師の大友信二が主人公です。彼は30代半ばで、山深い場所に賃貸住宅を構え、独身生活を送っています。ある夜、彼の教え子で無口な美少年、今林俊男が訪れます。俊男は親友の田所が信二のせいで死んだと考え、信二に責任を取らせるために切腹しろと告げます。実際、信二は田所を罰するために大雨の中に立たせ、その結果、田所は肺炎にかかり命を落としてしまったのです。信二は田所に対する愛情から切腹を決意し、俊男に近づきます。

信二は井戸の水で身を清め、俊男に求められて接吻を交わします。俊男は信二に短刀を渡し、彼が切腹する姿を見守りながら、信二に対する愛の告白をします。俊男自身も信二の死に続いて青酸カリで自ら命を絶つ覚悟を決めており、二人の愛の行為は痛ましいものとなります。

映画化

『愛の処刑』は1983年11月2日に映画化され、60分のカラー作品として公開されました。監督は野上正義、脚本は吉本昌弘、製作には伊藤文學が関与しています。この映画は御木平介と石神一が出演し、塁プロモーションによって製作され、ENKプロモーションが配給を担当しました。

収録内容

作品は『決定版 三島由紀夫全集 補巻 補遺・索引』に収録されています。全集には本篇や戯曲、評論、俳句・短歌などが含まれており、三島の多岐にわたる文学活動が示されています。特にこの作品は彼の文学観を大いに反映しており、三島の文筆活動を学ぶ上でも重要な位置を占めています。

『愛の処刑』は、愛と死が交錯するテーマを深く掘り下げた作品であり、読み手に深い印象を与えます。

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