愛新覚羅奕譞

愛新覚羅奕譞（あいしんかくら えきけん）

愛新覚羅奕譞（1840年10月16日 - 1891年1月1日）は、清朝の皇族であり、道光帝の第七子として生まれました。初代醇親王に封じられ、諡は「賢」です。満州語名は「アイシンギョロ・イフワン」といい、その生涯は清朝末期の激動の時代と深く結びついています。

生い立ちと初期のキャリア

奕譞は、荘順皇貴妃を母とし、咸豊帝、惇親王奕誴、恭親王奕訢といった兄弟を持っていました。道光30年（1850年）、兄である咸豊帝が即位すると、彼は醇郡王に封じられました。咸豊11年（1861年）に咸豊帝が崩御すると、東太后、西太后、そしてもう一人の兄である恭親王奕訢と協力してクーデターを敢行。これにより、怡親王載垣、鄭親王端華、粛順らが失脚し（辛酉政変）、甥の同治帝が即位することになりました。この功績により、奕譞は都統、御前大臣、領侍といった要職を歴任し、親王に昇進しました。

西太后の信任と政治的立場

西太后は奕譞の謙虚な姿勢を気に入り、彼に多くの特権を与えました。しかし、奕譞自身は政争に巻き込まれることを避け、慎重に日々を過ごしました。光緒元年（1875年）には、同治帝が後継者を残さずに死去したため、西太后は自身の妹を母とする奕譞の次男、載湉を同治帝の子として即位させました。これが光緒帝です。奕譞は実子の即位と共に一旦官職を退きましたが、光緒10年（1884年）の清仏戦争を契機に、恭親王が軍機大臣を罷免されると、その代わりに再び起用され、総理海軍事務衙門大臣にも任じられました。彼は李鴻章と慶親王奕劻を補佐役として海軍の統括にあたりました。

海軍費流用疑惑と日清戦争への影響

奕譞は海軍衙門大臣時代に、海軍費用を頤和園の建設費に流用したとされ、その悪名は広く知られています。この結果、清の主力海軍であった北洋艦隊は10年もの間、武器の更新ができず、艦隊の追加購入も不可能となりました。このことは、後の日清戦争における敗北の遠因の一つになったと考えられています。しかし、奕譞は謙虚な態度で西太后や栄禄ら保守派（后党）だけでなく、光緒帝の側近である翁同龢ら革新派（帝党）とも良好な関係を築いていました。彼は両派の緩衝地帯として、両派の衝突をある程度防いでいましたが、彼の死後、両派の対立は激化し、日清戦争の敗北とともに決定的となり、以後の政争へと繋がっていきました。

死去とその後

奕譞は光緒17年（1891年）に50歳で亡くなりました。彼の爵位は五男で光緒帝の異母弟である載灃が継ぎ、醇親王となりました。奕譞の生涯は、清朝末期の政治的混乱と、その後の歴史に大きな影響を与えた出来事が凝縮されています。

まとめ

愛新覚羅奕譞は、清朝の皇族として、また政治家として、激動の時代を生きました。西太后の信任を得て重用された一方で、海軍費流用疑惑という負の側面も持ち合わせていました。しかし、保守派と革新派の緩衝材としての役割を果たしていたことも事実です。彼の死は、清朝末期の政争を激化させ、日清戦争へと繋がる大きな転換点となりました。

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