愛欲と純潔の戦い

ピエトロ・ペルジーノが1503年に制作したテンペラ画『愛欲と純潔の戦い』は、ルネサンス期の寓意画の傑作として知られています。この作品は、マントヴァ侯爵夫人イザベラ・デステの依頼により、彼女の書斎を飾るために制作された連作の一つであり、愛欲と純潔の間の象徴的な闘争を描いています。現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

制作の背景

この絵画は、イザベラ・デステの書斎を飾る連作の第3作目として制作されました。最初の2作はアンドレア・マンテーニャによる『パルナッソス』と『美徳の勝利』です。ペルジーノの作品に続き、ロレンツォ・コスタが『調和の王国のイザベラ・デステ』を制作しました。当初マンテーニャに依頼された『コモスの治世』は、彼の死後コスタに引き継がれました。

イザベラ・デステは絵画の制作にあたり、ペルジーノと頻繁に書簡を交わしました。70通にも及ぶ書簡の中で、絵画のサイズ、使用する素材、そして主題についての詳細な指示が伝えられました。イザベラは主題に対して非常に厳格であり、画家が自身の創意を発揮する余地はほとんどありませんでした。この連作では、ジョヴァンニ・ベッリーニにも作品が依頼されましたが、自由な制作を望んだベッリーニは最終的に制作を断念しています。ペルジーノに対しても、イザベラは画家自身が発案した図像の追加を禁じました。図像計画は人文主義者パリーデ・ダ・チェレザーラによって考案され、詳細な指示が契約書に盛り込まれました。

主題：愛欲と純潔の闘争

イザベラの指示によれば、絵画の主題は愛欲と純潔の間の闘争であり、愛欲はヴィーナスとキューピッド、純潔はミネルヴァ（パラス）とディアナによって象徴されています。ヴィーナスはキューピッドとともに、ミネルヴァとディアナに対峙し、闘争を繰り広げます。イザベラは、ミネルヴァがキューピッドを打ち負かす様子や、ディアナがヴィーナスに勝利する様子を具体的に指示しました。

具体的には、ミネルヴァはキューピッドの金の矢をへし折り、銀の弓を足元に投げ捨て、目隠しを外して槍を突きつけます。ディアナはヴィーナスの松明によって衣服の一部を焼かれていますが、他の部分は無傷で、ヴィーナスとの対等な力関係を示しています。また、背景には、ミネルヴァとディアナに従う貞淑なニンフたちが、フォーン、サテュロス、多数のキューピッドといった好色な群衆と戦う様子が描かれています。

装飾要素

イザベラは、絵画をより豊かに表現するため、様々な装飾要素も指示しました。ミネルヴァの傍にはオリーブの木、メデューサの頭を持つ盾、そしてフクロウが描かれます。一方、ヴィーナスの傍にはギンバイカの木が描かれています。さらに、背景には川や海を配置し、フォーン、サテュロス、キューピッドたちが、愛欲の企てに参加するためにやってくる様子が描かれています。また、川岸には、エウロペを誘拐するユピテル、パラスのニンフであるグラウケラの周りを飛ぶメルクリウス、ガラテイアに近づくポリュペモス、月桂樹に変身したダプネ、プロセルピナを連れ去るプルート、ニンフを捕らえるネプトゥヌスといった、神話の登場人物が描かれています。

イザベラは、最終的に詳細な素描を送ることをペルジーノに求め、もし人物が多すぎる場合は、ミネルヴァ、ディアナ、ヴィーナス、キューピッド以外の人物を削除してもよいと指示しました。

作品の描写

ペルジーノは、イザベラの指示に従い、愛欲と純潔の擬人像が激しく戦う様子を描いています。ヴィーナスは松明を持ち、ディアナは弓矢を構えています。キューピッドたちは目隠しをし、松明を振りかざしたり、弓矢を構えたりしています。ミネルヴァは兜と胸当てを身に着け、キューピッドを捕らえています。ニンフたちは弓矢や盾、棍棒で戦っています。

背景には、神話の場面が描かれており、イザベラの指示どおりに、ミネルヴァの傍にはオリーブの木、ヴィーナスの傍にはギンバイカの木が描かれています。また、多くのキューピッドが目隠しをしているのは、愛が盲目であることを象徴しています。

作品の評価と来歴

絵画は1505年にイザベラ・デステのもとに届けられましたが、彼女は作品を評価しつつも、より熱心に制作していれば、より良い作品になっただろうと述べています。イザベラは、1519年に夫が亡くなった後、この絵画を新しい書斎に移しました。ペルジーノが1523年に死去した後、イザベラは画家の未亡人と連絡を取りましたが、ペルジーノの他の神話画の購入を断りました。その後、1531年頃に、コレッジョの寓意画を2点追加しました。

絵画は、1627年頃に他の連作とともに、フランスのリシュリュー枢機卿に寄贈され、1630年代にはリシュリュー城に飾られました。フランス革命までリシュリュー城に留まり、その後ルーヴル美術館に収蔵されました。

ギャラリー

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参考文献

エットーレ・カメザスカ『マンテーニャイタリア・ルネサンスの巨匠たち17』塚本博訳、東京書籍（1993年）
『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監修、河出書房新社（1988年）

外部リンク

ルーヴル美術館公式サイト, ペルジーノ『愛欲と貞潔の戦い』

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