慈恵医大病院医師不同意堕胎事件

慈恵会医大病院医師不同意堕胎事件

慈恵会医大病院医師不同意堕胎事件は、2009年に発覚した、医師が交際していた女性に同意を得ずに堕胎させた事件です。この事件は、女性が出産を望んでいたにもかかわらず、医師が自己の都合で堕胎させた点が、不同意堕胎罪に問われる極めて異例なケースとなりました。

事件の概要

当時、東京慈恵会医科大学附属病院に勤務していた男性医師は、金沢市内の病院に出向中、30代の女性看護師と交際していました。女性が妊娠したものの、医師は別の女性との結婚を控えており、妊娠が発覚すると結婚が破談になることを恐れました。そこで医師は、女性に秘密裏に堕胎させようと画策します。

医師は、女性に対し「ビタミン剤」と偽って子宮収縮剤の錠剤を飲ませたり、「水分と栄養補給のため」と偽って収縮剤を点滴したり、陣痛誘発剤を使用するなどして、妊娠6週目の胎児を流産させました。

捜査

流産を不審に思った女性が警察に相談したことから、事件が発覚。警視庁は、医師の知識を悪用した悪質な犯行であるとして、強制捜査に乗り出しました。

2010年5月、警視庁は不同意堕胎容疑で医師を逮捕。その後の捜査で、医師が病院から子宮収縮剤を不正に入手していたことや、点滴に使用した輸液パックを実家の内科医院から入手していたことが明らかになりました。

当初、医師は容疑を否認していましたが、後に「産ませたら（女性と子供が）不幸になると思った」と供述し、犯行を認めました。医師は事件後、勤務先を懲戒解雇されています。

2010年6月、東京地検は医師を不同意堕胎罪で起訴しました。

裁判

2010年7月、東京地裁で初公判が開かれました。医師は起訴事実を認めました。

検察側は冒頭陳述で、医師が女性と妻に互いの存在を打ち明けていなかったため、「被害者が出産すれば、妻との結婚が破談になると考えた」と指摘。女性の出産意思が強かったことから、「だまして子宮収縮剤を服用させるしかないと考えた」と主張しました。

同年8月の論告求刑公判で、検察側は「生命を守るべき医師の立場や知識を悪用した計画的で無情な犯行」として懲役5年を求刑。弁護側は、医師が解雇された上、医師免許の返上を申し出るなど社会的制裁を受けているとして、執行猶予を求めました。

東京地裁は、「生命を尊重すべき医師という立場を利用して犯行に及んだことは強い社会的非難を免れないが、勤務先を懲戒解雇されるなど、社会的制裁を受けている」として、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。検察側、弁護側双方が控訴せず、判決が確定しました。

2011年2月、厚生労働省は、刑事事件で有罪が確定した医師に対する行政処分を決定し、本件の医師も処分対象となりました。

この事件は、医師という専門的な立場を悪用した、倫理的に許されない行為であり、社会に大きな衝撃を与えました。

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