慈愛の輝き

ジョージ・ハリスン『慈愛の輝き』

『慈愛の輝き』（原題: George Harrison）は、1979年2月20日に発表されたジョージ・ハリスンの9枚目のスタジオ・アルバムです。前作『33 1/3|33 1_3』から約2年ぶりのリリースとなりました。

制作の経緯

1976年のアルバム『33 1/3|33 1_3』のプロモーション後、ジョージは一時的に音楽活動から離れ、趣味のモータースポーツ観戦に時間を費やしました。F1ドライバーのニキ・ラウダとの交流が、曲作りの再開を促すきっかけになったと言われています。

創作活動はイギリスとハワイのマウイ島で行われました。マウイ島の豊かな自然がジョージにインスピレーションを与え、楽曲制作を大きく進展させました。当時、音楽業界ではパンク・ロックやディスコが主流となりつつありましたが、ジョージは自身のサウンドを確立するために、新たなアプローチを模索しました。

ワーナー・ブラザース・レコードの提案により、レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマン、テッド・テンプルマンといったプロデューサーにデモテープを聴かせ、最終的にラス・タイトルマンを共同プロデューサーに迎えることになりました。

レコーディング

1978年3月中旬、ジョージはタイトルマンに新曲を披露し、レコーディングを開始しました。まず、オリヴィア・アリアスへのラブソング「ダーク・スウィート・レディ」を録音。その後、イギリスの自宅スタジオであるフライアー・パーク・スタジオで本格的なレコーディングが行われました。

アンディ・ニューマーク、ウィリー・ウィークス、ニール・ラーセンらが参加し、ベーシックトラックが完成。オーバーダビングとミキシングを経てアルバムは完成に近づきました。

レコーディング期間中、ジョージの父ハロルドが亡くなるという悲しい出来事がありました。一方で、息子ダーニが誕生し、オリヴィア・アリアスと結婚するなど、公私にわたって大きな変化がありました。

レイ・クーパーやスティーヴ・ウィンウッドといった旧友に加え、ゲイリー・ライトが共作した「イフ・ユー・ビリーヴ」で参加。また、エリック・クラプトンがジョージの前妻パティ・ボイドを伴ってスタジオを訪れ、「愛はすべての人に」のイントロでギターを演奏しました。ストリングスとホーンは、ロンドンのAIRスタジオで録音されました。

リリースと評価

アルバムは1978年10月初旬に完成しましたが、アートワークの遅れから発売は翌年に延期されました。先行シングルとしてリリースされた「ブロー・アウェイ」は、アメリカで大ヒットを記録。イギリスでもシングルチャート入りを果たしました。

アルバム自体は、アメリカの『キャッシュボックス』誌で前作を上回る評価を得ましたが、『ビルボード』誌では前作を下回る結果となりました。日本でもオリコンチャートで前作を下回るなど、売り上げは伸び悩みました。

邦題の『慈愛の輝き』は、発売元であるワーナー・パイオニアの担当者が、収録曲「永遠の愛」の歌詞から着想を得て名付けられました。これは、かつて東芝EMIが再発した『オール・シングス・マスト・パス』の邦題と混同されるのを避けるためでもありました。

1991年にCD化された後、一時廃盤となりましたが、2004年にデジタル・リマスタリングされ再発。「ヒア・カムズ・ザ・ムーン」のデモ音源がボーナス・トラックとして追加収録されました。

アートワーク

アートディレクションは、アメリカのデザイナー兼写真家のマイク・ソールズベリーが担当。ジャケット写真は、ジョージの自宅フライアー・パークの庭園で撮影されました。

インナー・スリーブには、「ファースター」の歌詞と、ジョージとジャッキー・スチュワートが並んで歩く写真が掲載されています。歌詞の下には、この曲がスチュワートとニキ・ラウダにインスパイアされたこと、F1関係者への感謝、ロニー・ピーターソンへの追悼の言葉が記されています。

収録曲

「ダーク・スウィート・レディ」
「ブロー・アウェイ」
「愛はすべての人に」
「ソフト・ハーテッド・ハナ」
「イフ・ユー・ビリーヴ」
「ヒア・カムズ・ザ・ムーン」
「ノット・ギルティ」
「ベイビー・ドント・ラン・アウェイ」
「永遠の愛」
「ファースター」

参加ミュージシャン

ジョージ・ハリスン - ボーカル、エレクトリック・ギター、バッキング・ボーカル、ベース
アンディ・ニューマーク - ドラム
ウィリー・ウィークス – ベース
ニール・ラーセン - キーボード、シンセサイザー
レイ・クーパー - パーカッション
スティーヴ・ウィンウッド – シンセサイザー、ハーモニウム、バッキング・ボーカル
エミール・リチャーズ – マリンバ
ゲイル・レヴァント- ハープ
エリック・クラプトン – ギター
ゲイリー・ライト – オーバーハイムOB-X
* デル・ニューマン – ストリングス、ホーン・アレンジメント

『慈愛の輝き』は、ジョージ・ハリスンの音楽的な探求心と、人生における様々な経験が反映された作品と言えるでしょう。

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