慕輿虔

慕輿虔（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物です。彼は中軍将軍という要職にあり、その軍事的な手腕を発揮しました。子に慕輿常がいます。

365年3月、前燕軍は洛陽を攻略し、揚武将軍の沈勁を捕らえました。この沈勁は、東晋の人物であり、沈充の子でした。捕らえられた沈勁は、敵将であるにもかかわらず、堂々とした態度を崩しませんでした。その様子に感銘を受けた太宰の慕容恪は、沈勁の才能を惜しみ、刑を免じることを検討しました。

しかし、中軍将軍の慕輿虔は、慕容恪に対し、次のように諫言しました。「沈勁は確かに優れた人物ではありますが、その志や態度を見る限り、我々が彼を臣下として用いることは難しいでしょう。もしここで彼を赦免したとしても、彼はその恩に報いることなく、後々必ずや我々の脅威となるでしょう。」

慕輿虔は、沈勁の潜在的な危険性を見抜き、将来的な禍根を断つことを主張したのです。慕容恪は、慕輿虔の進言を受け入れ、沈勁を処刑するという決断を下しました。この一件は、慕輿虔の先見の明を示すエピソードとして知られています。

その後、慕輿虔はその功績により、零陵公に封じられました。零陵公は、中国にかつて存在した郡名に由来する爵位であり、彼が一定の領地と権限を与えられたことを示唆しています。しかし、零陵公に封じられた後の慕輿虔の事績については、残念ながら史書にはほとんど記録が残っていません。彼の晩年や没年についても不明であり、歴史の闇に包まれています。

参考文献

『資治通鑑』巻101、巻105
『十六国春秋』巻28

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