慕容恪

慕容恪（ぼよう かく）

慕容恪（生年不詳 - 367年5月）は、五[[胡十六国時代]]の前燕に名を残す政治家であり、傑出した武将です。字は元恭（げんきょう）。鮮卑（せんぴ）慕容部の出身で、昌黎郡棘城県（現在の遼寧省錦州市義県の北西）に生まれました。前燕の創始者である慕容皝（ぼよう こう）の四男であり、兄に慕容儁（ぼよう しゅん）、弟に慕容垂（ぼよう すい）・慕容徳（ぼよう とく）がいます。母は貴人の高氏でした。

生涯

若き日の台頭

慕容恪は、父である慕容皝から当初はあまり目をかけられていませんでした。しかし、15歳になるとその優れた才能が認められるようになり、孫子・呉起の兵法を授けられ、将軍として数々の征伐に従軍するようになります。その才能は早くから開花し、盪寇将軍（とうこうしょうぐん）に任じられるなど、その将来を嘱望されました。

後趙との戦い

咸康4年（338年）には、後趙（こうちょう）の君主である石虎（せきこ）が数十万の大軍を率いて前燕に侵攻。本拠地である棘城（きょくじょう）を包囲されるという危機に陥ります。慕容恪は、胡人の騎兵を率いて撤退する後趙軍に奇襲をかけ、大打撃を与え、3万を超える兵を討ち取るという大戦果を挙げました。その後、凡城（ぼんじょう）を築いて守備兵を配置し、防衛体制を強化しました。

同年12月、段部（だんぶ）の首領である段遼（だん りょう）が後趙への降伏を申し出ますが、これは偽りであり、密かに前燕にも降伏の使者を送っていました。慕容皝はこれを受け入れ、段遼と協力して後趙軍を奇襲する計画を立て、慕容恪に7千の精鋭を与えて密雲山（みつうんざん）に派遣。麻秋（ま しゅう）率いる後趙軍に大打撃を与え、兵卒の多くを討ち取るという活躍を見せました。

遼東統治

咸康7年（341年）には、度遼将軍（どりょうしょうぐん）に任じられ、平郭（へいかく）の統治を委ねられます。慕容恪は、古くからの民を懐け、新たに流入してきた民を撫でることで、情勢を安定させました。また、高句麗（こうくり）の軍を幾度も破り、その勢威を示したため、高句麗は前燕に攻め入ることを恐れるようになりました。

宇文部討伐と夫余征伐

建元2年（344年）には、宇文部（うぶんぶ）討伐に参加。別動隊を率いて宇文部の大人（たいじん）である宇文逸豆帰（うぶん いつずき）を破り、宇文部を壊滅させました。永和2年（346年）には、夫余（ふよ）征伐に参加し、玄王（げんおう）と部落民5万人余りを捕虜とするという大戦果を挙げました。

慕容儁の時代

慕容皝の死後、子の慕容儁が王位を継承すると、慕容恪はその才能を高く評価され、国家の重事を委ねられるようになります。慕容恪もまた、その期待に応え、数々の功績を挙げていきます。

中原進出と冉閔討伐

後趙の内乱に乗じて中原への進出を企てた慕容儁は、慕容恪を輔国将軍（ほこくしょうぐん）に抜擢し、中原攻略の遠征軍の中核を任せました。冉閔（ぜんびん）が建てた冉魏（ぜんぎ）との戦いでは、魏昌の廉台（れんだい）において激戦を繰り広げます。慕容恪は、冉閔の軍勢を破り、冉閔自身を捕虜とするという大功績を挙げました。

魯口攻略と帝位簒奪の阻止

冉魏を滅ぼした後、慕容恪は魯口（ろこう）を攻略し、前燕の領土を拡大しました。その後、群臣と共に慕容儁に帝位に即くよう要請し、前燕は正式に皇帝を擁立する国家となります。慕容恪は侍中（じちゅう）に任じられ、衛将軍（えいしょうぐん）に昇進しました。

段部討伐と河南侵攻

斉王（せいおう）を名乗り、東晋（とうしん）に帰順していた段龕（だん かん）を討伐し、斉の地を平定しました。その後、東晋の泰山郡太守である諸葛攸（しょかつ ゆう）を撃退し、河南（かなん）の地を攻略。前燕の支配地域を黄河以南にまで拡大しました。

幼主を支える宰相として

慕容儁が病に倒れると、慕容恪は帝位を譲ろうとされますが、固辞。慕容儁の遺言により、幼い慕容暐（ぼよう ウェイ）を補佐する太宰（たいさい）・録尚書事（ろくしょうしょじ）に任じられ、事実上の摂政として国政を主管することになります。

慕容恪は、慕輿根（ぼよ こん）の反乱を鎮圧し、朝廷内の権力闘争を収束させました。また、東晋に帰順していた呂護（ろ ご）を討伐し、野王（やおう）を陥落させました。さらに、東晋の勢力下にあった洛陽（らくよう）を制圧し、前燕の勢力を拡大しました。

死とその後

建熙8年（367年）に病に倒れ、慕容暐に慕容垂を重用するように遺言を残して亡くなりました。その死は、前燕にとって大きな損失であり、その後の国運を大きく左右することになります。

人物

慕容恪は、幼い頃から慎み深く温厚であり、感情を表に出さず、度量の大きい人物でした。15歳にして身長は八尺七寸にもなり、容貌は魁傑（体格に優れて逞しい事）となり、雄毅（雄々しく意志が強い事）・謹厳（軽はずみに動かず、真面目で厳かな事）な人物に成長したと伝えられています。

宰相として全権を握るようになってからも、朝廷における礼節を遵守し、決して専断することはありませんでした。また、人を取り立てる際には、その才覚を量って適切な任を与え、過ぎた位を与えることはありませんでした。その公正な姿勢は、多くの人々に慕われました。

軍を率いる際には、威圧的な態度を取ることはなく、恩徳と信義によって兵士たちを動かしました。大まかな原則のみを把握させ、細かい規則や厳しい軍令で苦しませることはなかったので、兵士たちは安心して軍営に身を置くことができました。

評価

慕容恪は、その卓越した軍事的能力と政治手腕により、後世の人々から高く評価されています。北魏（ほくぎ）の宰相である崔浩（さい こう）は、慕容恪を「慕容暐にとっての霍光（かくこう）」と評しました。また、唐代の史館が選んだ中国史上六十四名将の一人に選出されるなど、その功績は長く語り継がれています。

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