懐建可汗

懐建可汗（かいけんかがん）

懐建可汗（生年不詳 - 866年）は、9世紀に成立した天山ウイグル王国の初代可汗であり、激動の時代を生き抜いた人物です。別名としてパンテギン、厖特勤（ほうテギン）の名も知られています。

ウイグル可汗国の崩壊と西遷

8世紀末から9世紀前半にかけて、ウイグル可汗国はエディズ氏出身の可汗のもとで隆盛を誇りました。しかし、832年にフーテギン（彰信可汗）が即位すると、ヤグラカル氏との間で王位を巡る内戦が勃発。フーテギンの敗北と自殺によって内戦は終結しますが、839年にはヤグラカル氏のキチクテギンが可汗となります。

相次ぐ内戦に加え、大雪や疫病の流行が人的・物的資源を消耗させ、ウイグル可汗国は疲弊。これに乗じたキルギスが反乱を起こし、840年には首都カラバルガスンが陥落、可汗のキチクテギンと宰相キュレビルが殺害されるという事態に陥りました。

このような状況下、エディズ氏の皇子であったパンテギンは、部族民十数万人と家畜百万頭を率いてモンゴル高原から西方への移動を開始します。841年秋にはジムサル東方からクムルのバルクルに到達、842年にはカラシャール、クチャ方面へと勢力を広げました。

同時期に、同族のオゲテギン（烏介可汗）が南方に移動した勢力に推戴されて可汗に就任しており、パンテギンは一旦「ヤブグ」（宰相）を称しました。しかし、南方移動勢力は内紛によりオゲテギンが846年に暗殺され、後を継いだ弟のイナンテギン（遏捻可汗）も西方へ逃亡し行方不明となるなど混乱が続きます。

天山ウイグル王国の建国

848年、パンテギンはついに自ら「可汗」位を宣言し、唐の宣宗から温禄登里羅汨没蜜施合倶録毘伽懐建可汗（オンルデンリ・ロギメミシ・フグル・ピガ・カイケンカガン）の称号を授けられました。これにより、天山ウイグル王国が正式に成立したのです。

懐建可汗は、トルファン、青海周辺地域、甘州からチベットにかけての地域、そして天山山脈北部山麓地域のマナス・ウルムチ・ビシュバリクからキルギスにかけての地域を次々と制圧し、王国の基盤を固めました。

しかし、866年、天山山脈北部山麓地域からのキルギス駆逐を指揮していたボコテギンによって懐建可汗は殺害され、ボコテギンが次代の可汗に就任。激動の生涯を閉じました。

参考文献

* トルグン・アルマス 著、東綾子 訳『ウイグル人』集広舎、2019年

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