懐月堂安度

懐月堂安度：謎に包まれた江戸時代の浮世絵師

懐月堂安度は、江戸時代中期の浮世絵師として知られる人物です。生没年は不明であり、名前の読み方についても諸説あります。「やすのり」という読み方もあるようです。菱川派の衰退後、宝永から正徳の頃（1704～1716年頃）に活躍し、多くの弟子を抱える工房を主宰していました。吉原の遊女などを描いた肉筆美人画を得意とし、その独特な画風は一世を風靡しました。

懐月堂派と工房経営

安度とその弟子たちによって形成された画家の集団は「懐月堂派」と呼ばれ、安度はその中心人物として活躍しました。弟子には長陽堂安知、度種、度秀、度辰、度繁らがおり、彼らの作品には「懐月末葉」の落款が見られます。しかし、彼らが「懐月堂」を名乗っていたかどうかは、はっきりとはしていません。懐月堂派の画風は、当時数多くの絵師に影響を与え、多くの追随者を生みました。

画風と師系

安度の師系は不明ですが、その作風は菱川派の影響を強く受けていたとされています。浅草諏訪町（現在の台東区駒形）に住んでいたことから、当初は寺社に奉納する絵馬などを描いていた可能性も指摘されています。安度は「懐月堂」「翰運子」といった号を用い、肉筆画を中心に制作活動を行い、木版画の作品は残されていません。美人画が中心ですが、「川中島合戦図」や「武田信玄像」といった武者絵も手掛けていました。

江島生島事件と流罪

安度は、正徳4年（1714年）に発生した江島生島事件に巻き込まれ、伊豆国大島に流罪となりました。同町に住んでいた商人、栂屋善六が絵島を芝居見物に案内した際、安度も同席していたことが処罰の理由となったとされています。享保7年（1722年）5月に恩赦により江戸へ帰還するまで、流罪生活を送っていました。帰還後も懐月堂派は活動を続け、享保19年（1734年）刊行の『本朝世事談綺』には、その勢力の大きさがうかがえる記述が見られます。

俳人としての活動

享保15年（1730年）刊行の『二子山』、元文3年（1738年）刊行の『卯月庭訓』（いずれも豊島露月撰）といった俳書に、「懐月堂常仙」または「常仙」と署名した挿絵が収録されています。同時期に活動した俳人、志村常仙が新島に流罪になったという伝承と、いくつかの記録から、安度と志村常仙は同一人物であるという説があります。『俳諧人物便覧』には志村常仙の没年が宝暦2年（1752年）8月23日、享年76歳と記されており、この説が正しいとすれば、安度の生年は延宝5年（1677年）となります。

作品と参考文献

安度の作品は、主に肉筆美人画であり、多くの作品が美術館などに収蔵されています。彼の生涯や作品については、様々な文献が参考にされています。例えば、『浮世絵師伝』（井上和雄編）、『肉筆浮世絵第二巻　師宣』（楢崎宗重監修）、『浮世絵大事典』（国際浮世絵学会編）などが挙げられます。これらの文献から、懐月堂安度の生涯と作品について、より詳細な理解が深まっています。しかし、依然として不明な点も多く、謎に包まれた浮世絵師として、現在も研究が続けられています。

安度の作品は、その繊細な描写と独特の雰囲気から、現代においても高い評価を受けています。彼の生涯は、浮世絵の歴史を考える上で重要な要素であり、今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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