戌井市郎

戌井市郎の生涯と業績

戌井市郎（いぬい いちろう）は、日本の演出家であり、文学座の代表として知られる重要な人物です。1916年8月5日に京都府京都市祇園で生まれ、本名は戌井市郎右衛門です。彼の家族には演劇に関わる人物が多く、母方の祖父は著名な喜多村緑郎でした。戌井は京都市立第二商業学校を卒業後、演劇の世界に飛び込みます。

演劇の世界への足跡

戌井は、1935年に創作座の研究生として演技の基礎を学び、1937年には文学座の創立メンバーとして参加します。ここで彼は、久保田万太郎や岸田国士、岩田豊雄らの演出助手を務め、本格的な演出の技術を磨くことになります。その後、1940年には日本放送協会（NHK）に嘱託として就職し、1943年までの間、ラジオ番組の演出に携わります。

1945年には、森本薫の作品「女の一生」の初演で演出助手を務め、この経験が彼の演出家としてのキャリアの基盤を築くこととなります。1957年には日本新劇代表団の一員として中国を訪れ、多くの体験を積むことができました。

文学座での活動

1963年には劇団文学座の理事に就任し、1970年には終身幹事として重要な運営に関わります。さらに、取締役や社長を経て、1992年には文学座の会長に就任し、2008年までその役割を果たしました。この間、戌井は新劇のみならず、新派や歌舞伎、さらには商業演劇など、幅広いジャンルの演出に挑戦し、多大な影響を与えました。

数々の賞と栄誉

彼の演出活動は高く評価され、1954年には毎日演劇賞を受賞しました。その他にも、名古屋演劇ペンクラブ賞（1960年）、紫綬褒章（1982年）、勲三等瑞宝章（1987年）、芸能功労者表彰（1997年）、朝日舞台芸術賞特別賞（2003年）、読売演劇大賞芸術栄誉賞（2008年）、松尾芸能賞特別賞（2008年）など、数多くの栄誉を受けました。

さらに、1997年から2001年まで日本演出者協会の理事長を務め、2006年から2009年には日本劇団協議会の会長として、演劇界の発展にも尽力しました。

著書と家族

戌井市郎の演出家としての経験は、著書『芝居の道 文学座とともに六十年』にまとめられ、多くの読者に彼の考えや実績が伝えられています。また、彼の家族には、作家の戌井昭人がいます。このように、戌井市郎は演劇界だけでなく、文学の世界でも影響力を持つ存在でした。

最期の日々

2010年12月15日、戌井市郎は肺炎のため94歳で亡くなりました。彼の長い人生は、演劇に捧げられ、彼が関わった作品や活動は今なお多くの人々に影響を与えています。彼の功績は、今後も日本の演劇界に刻まれていくことでしょう。

もう一度検索