戒厳令の夜 (映画)

戒厳令の夜：絵画をめぐる国際的な陰謀と愛憎劇

1980年公開の映画『戒厳令の夜』は、山下耕作監督が手掛けたサスペンス作品です。五木寛之の小説を原作としていますが、原作で「ヌエバグラナダ」という架空の国名で描かれた舞台は、実際には1973年9月のチリ・クーデターを背景にしています。日本、フランス、コロンビアでロケが行われた本作は、国際的なスケール感とリアリティを兼ね備えています。

物語は、主人公の江間隆之が博多のバーで、南米の画家パブロ・ロペスが描いたとされる絵画「少女像」を発見するところから始まります。彼はこのことを大学の恩師である秋沢敬之助に報告しますが、秋沢はそんな絵は存在しないと否定。しかし、直後に秋沢は自殺してしまいます。

江間の友人である伊崎の調査により、「少女像」はナチス占領下のフランスで強奪されたものであることが判明します。さらに、絵画は日本に持ち込まれ、筑豊の炭鉱に隠匿されていることも明らかになります。ヌエバグラナダ文化省の高官であるバルデス夫人により、絵画が本物であることが確認されます。秋沢が残した遺書には、炭鉱主の原島雄一郎が秋沢に鑑定を依頼し、この事実を口止めしていたことが記されていました。

右翼の黒幕である鳴海望洋とその私兵集団は、絵画の奪還と責任追及のため、原島らに対して「作戦行動」を開始します。その現場には、なんと総理大臣も居合わせてしまうという、予期せぬ事態が発生します。

一方、江間と秋沢の娘である冴子は、鳴海の私兵集団と別行動で、絵画の謎を解き明かすためヌエバグラナダへと向かいます。しかし、その国ではクーデターが迫っており、バルデス夫人との連絡も途絶えてしまいます。電話が途中で切れ、銃声が聞こえたまま、物語は幕を閉じます。

この映画には、多くの著名なスタッフ・キャストが参加しています。竹中労、森敏男、若松孝二が製作にあたり、崔洋一や俵坂昭康が助監督を務めています。脚本は夢野京太郎（竹中労のペンネーム）と佐々木守が担当、撮影は宮島義勇、音楽はジョー山中が担当し、アマリア・ロドリゲスの歌う主題歌「悲しみのフローレンス」が映画の世界観を彩っています。

キャストには、伊藤孝雄、樋口可南子、鶴田浩二、佐藤慶、伊吹吾郎、大木実、稲葉義男、長門勇、ルス・エレナ・カルデナスらが出演。特に劇中に登場するパブロ・ロペスの『少女像』は、日本の画家、竹中英太郎が本作のために描き下ろした作品です。

『戒厳令の夜』は、絵画をめぐるミステリー、政治的な陰謀、そして国際的な情勢が複雑に絡み合った、見応えのある作品です。チリ・クーデターという歴史的事件を背景に、愛憎劇、サスペンス、そして社会派ドラマの要素が凝縮された、忘れがたい映画体験を提供してくれるでしょう。

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