戦海の剣

天沼俊氏の手がけた日本の漫画作品『戦海の剣』は、集英社の漫画雑誌『MANGAオールマン』にて、2000年24号から2002年15号の最終号まで連載されました。単行本は全5巻が刊行されています。同誌の休刊に伴い、物語は『戦海の剣－死闘』と名を改め、『ビジネスジャンプ』（同じく集英社刊）へ移籍し、2002年18号から2004年20号まで連載が継続されました。こちらの続編は単行本全6巻としてまとめられています。

あらすじ

戦海の剣

物語は近未来の2009年 7月25日、日本の現状に警鐘を鳴らすことを目的とした突如の武力蜂起から幕を開けます。海上自衛隊の架空部隊である第7潜水隊に所属する最新鋭潜水艦「くろしお」（SS-600、実在の同名潜水艦とは異なる型）が、艦長である織田志郎3等海佐の指揮下でクーデターを決行します。「くろしお」は中東へ向かう日本船籍のタンカーを攻撃し、日本の経済生命線たる海上交通路（シーレーン）を掌握、これにより日本国民全体を事実上の人質としました。

この未曽有の事態を収束させるため、海上幕僚長の米内正光と自衛艦隊司令官の本山忠一海将は、過去に訳あって退官したものの、卓越した能力を持つ伝説的な元隊員、南郷海人元2等海尉を呼び戻します。

南郷は「くろしお」と同タイプの潜水艦「しろしお」（SS-599）に乗艦しますが、艦長の白井2等海佐はクーデターという状況を信じようとせず、南郷と指揮権を巡って激しく対立します。リーダー不在となった「しろしお」は海底へと追い詰められ、沈没寸前の危機に瀕しますが、南郷の指揮能力によって間一髪で浮上を果たします。しかし、再び指揮権を取り戻した白井艦長の操艦ミスにより、「しろしお」は座礁してスクリューを損傷、航行不能に陥ります。一方、「くろしお」もまた、南郷の機転と副長・崎守1等海尉の判断ミスから艦体に大きな損傷を負います。その後、「くろしお」は消息を絶ち、第一部は終了します。

戦海の剣－死闘－

一年後の2010年 8月1日、再び織田と「くろしお」が出現し、物語は新たな展開を迎えます。織田は第1護衛隊群に所属するイージス艦「むさし」を魚雷とハープーンミサイルで撃沈し、改めて日本に対し宣戦を布告、再びシーレーンを封鎖します。輸入大国である日本にとって、シーレーンの封鎖は経済的な破滅を意味する窮状であり、本山海将は再び南郷を招集します。南郷は、日本がシーレーン防衛を目的として極秘裏に建造を進めていた海上自衛隊初の航空母艦「剣（つるぎ）」（CV-88）の初代艦長に任命され、織田との再度の決戦へと向かうことになります。

織田側は、新たに就役した同型艦「あらしお」（SS-601）を占拠して「くろしお」と改名し、旧「くろしお」（SS-600）を僚艦「さきしお」として崎守が艦長を務める体制を構築します。「さきしお」には織田の腹心であり、常識を超えた聴力を持つ比類なきソナー員、響秀人3等海曹が乗艦していました。

前回の戦いと同様、南郷は響の「奇蹟の耳」に翻弄されながらも「さきしお」との戦いを制しますが、追い詰められた織田は日本本土に向けて巡航ミサイル「トマホーク」を連続して放ちます。最終話では、多大な犠牲を払いながらも織田を打倒したことが、駆け足で語られる形で物語は幕を閉じます。

主要登場人物

南郷海人（なんごうかいと）: 中学卒業後、自衛隊生徒として海自に入隊し、防衛大学校を経て2等海尉まで昇進しますが、政治的な理由で艦名が決められたことに反発し上官を殴って退官した過去を持ちます。経験、知力、そして度胸を兼ね備えたリーダーシップの持ち主で、新造空母「剣」の艦長として異例の復帰を果たし、2等海佐に昇進します。
織田志郎（おだしろう）: クーデターの首謀者である潜水艦「くろしお」艦長。3等海佐。防衛大学校を首席で卒業したエリートであり、「武人」と称されるにふさわしい人物で、部下からの信頼が厚いです。かつて海上自衛隊幹部候補生学校で生徒指導官を務めており、「青鬼」と恐れられた時期もありました。南郷とはその頃からの因縁があります。
響秀人（ひびきひでと）: 「くろしお」および「さきしお」のソナー員。3等海曹。「ラビットマン」の通称で知られ、織田の片腕として活躍します。世界的なピアニストの息子であり、常人にはありえない驚異的な聴覚を持ち、潜水艦戦において絶大な能力を発揮します。
土佐源太（とさげんた）: 元「しろしお」先任伍長（海曹長）。南郷の的確なサポート役を務めます。職人気質で、「潜水艦乗り」であることに強い誇りを持っています。初任幹部だった頃の織田に潜水艦の基礎を教えた人物であり、織田を一流の潜水艦乗りとして認めています。「剣」就役時には異例の抜擢を受けて1等海尉に昇進し、「剣」の副長に就任します。
本山忠一（もとやまちゅういち）: 海将。自衛艦隊司令官。「剣」を含む新造艦開発計画の責任者であり、南郷を艦長として推薦した人物です。部下に対しては適度な厳しさと、時には細やかな気配りも忘れない、理想的な上官像として描かれています。

主要登場艦艇

CV-88 剣（つるぎ）: 日本がシーレーン防衛を目的に7年もの歳月をかけて建造した、戦後初の国産航空母艦です。艦橋構造物はこんごう型護衛艦に似ています。建造当初は乗組員の訓練が完了しておらず出撃しませんでしたが、「－死闘－」編で就役し、「さきしお」「くろしお」との激しい戦いを繰り広げます。VLS32セル、ファランクスCIWS5基を装備し、全長350m、満載排水量88,000トンを誇ります。艦長は南郷2等海佐、副長は土佐1等海尉です。
くろしお（初代 SS-600）: 織田が乗艦する海上自衛隊最新鋭潜水艦。ロシアのタイフーン型原子力潜水艦に見られる魚雷防御室を改良したものを両舷に備え、さらにリニアモーターカーの原理を応用した超伝導電磁推進装置を搭載することで、水中をほぼ無音で航行できる驚異的な能力を持ちます。この性能から、通常動力潜水艦としては世界最高峰の実力を持つと設定されています。全長140m、水中排水量9,500トン。艦長は織田3等海佐。
くろしお（2代目 SS-601）: 新たに就役したSS-601「あらしお」を織田が奪取し、「くろしお」と改称した艦です。初代と同様の超伝導電磁推進装置を装備しており、外観も初代とほぼ同じですが、巡航ミサイル「トマホーク」とその発射用VLS24セルを搭載しています。艦長は織田3等海佐。
SS-600 さきしお: 2代目「くろしお」の僚艦です。元々は初代「くろしお」（SS-600）でしたが、織田が「あらしお」を「くろしお」と改名したため、名称が変更されました。艦長は崎守1等海尉、ソナー員は響3等海曹が務めます。
SS-599 しろしお: 初代「くろしお」と同型の潜水艦です。超伝導電磁推進装置は装備されていない点を除けば、「くろしお」と設計は共通しています。艦長は白井2等海佐、先任伍長は土佐海曹長でした。

書誌情報

天沼俊『戦海の剣』集英社〈SCオールマン〉全5巻が2001年から2002年にかけて刊行。続く『戦海の剣－死闘』集英社〈ヤングジャンプ・コミックス・BJ〉全6巻は2003年から2004年にかけて発売されました。

これらの単行本には、それぞれISBNコードが付与されており、作品の出版情報が詳細に記録されています。

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