戸川安論

戸川安論：波乱の幕臣人生

戸川安論(とがわやすとも)は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した幕臣です。宝暦12年(1762年)に、著名な医家・曲直瀬正山の次男として誕生しました。400石の知行を有する旗本でしたが、後に500石に増えました。筑前守の官位に叙され、通称は内記、のちに藤十郎と名乗りました。

安永6年(1777年)、戸川安精の養子となり、安精の死去に伴い家督を相続します。この養子縁組は、安論の生涯における重要な転機となりました。

天明2年(1783年)には御小納戸に任命され、同年には布衣の着用を許されるなど、幕府における地位を着実に築いていきます。その後、享和元年(1801年)には御小納戸頭取に昇進し、従五位下に叙せられ、筑前守を名乗るようになりました。

享和2年(1802年)2月、安論は新設された蝦夷奉行に就任します。これは、当時、幕府が蝦夷地(北海道)の開発・統治に力を入れていたことを示す重要なポストでした。この任命と同時に、上野国群馬郡内に100石の加増を受け、中島戸川家の家禄は500石に増加しました。蝦夷奉行は、同年5月に箱館奉行に、文化4年(1807年)には松前奉行と改称されました。

しかし、文化5年(1808年)4月、文化露寇の責任を問われ、松前奉行を罷免され、寄合入りおよび差控という立場に降格させられました。これは、安論の幕臣としてのキャリアに大きな影を落とす出来事でした。文化露寇は、ロシアとの国境紛争であり、幕府は安論に責任の一端を負わせたものと考えられます。

その後、文化12年(1815年)、広敷御用人として役職に復帰を果たしました。これは、安論の能力と経験が幕府によって依然として高く評価されていたことを示しています。しかし、文政4年(1821年)に、在任中に死去しました。安論の墓所は、東京目黒の最上寺にあります。

安論の跡は、息子の戸川安清が継ぎました。

家系図

父：曲直瀬正山
母：井上俊良の娘
養父：戸川安精
妻：橘元周の娘
後妻：小野則武の娘
男子：戸川安清

参考文献

『徳川幕臣人名事典』東京堂出版、2010年
デジタル版 日本人名大辞典+Plus
* 『函館市史』通説編第1巻第3編第3章第2節 箱館奉行および松前奉行

戸川安論の生涯は、幕府における出世と失脚、そして蝦夷地経営という重要な歴史的側面を垣間見せる、ドラマチックなものでした。彼の経験は、当時の幕府政治や対外関係、そして北海道開発の歴史を理解する上で貴重な資料となっています。

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