戸田繁子

戸田繁子：音楽教育に生涯を捧げた情熱の人

戸田繁子（1908年7月31日 - 2019年3月31日）は、島根県飯南町出身の日本の音楽教師です。広島市で音楽教室「杉の子会」を主宰し、その教育活動は50年にも及びました。多くの音楽家を育てたことで知られ、その功績は音楽教育界に大きな影響を与えました。

生い立ちと音楽への道

1923年に高等小学校を卒業後、島根県女子高等師範学校に進学。1927年に卒業すると、島根県飯石郡吉田村小学校に赴任しました。しかし、音楽への情熱を抑えきれず、松江市の飯田忠義のもとでピアノと声楽のレッスンを受け、更なる高みを目指します。1929年、東京音楽学校教員養成所の試験に合格し、翌年からピアノを遠山つや、声楽を田中伸江に師事しました。

教員としてのキャリアと「杉の子会」の設立

1932年に東京音楽学校を卒業後、島根県立今市高等女学校（現・出雲高等学校）に勤務。当時注目されていた「音感教育」を学ぶため、大阪音楽大学創立者である永井幸次の研究会に積極的に参加しました。その後、兵庫県立淡路高等女学校、奈良県立高田高等女学校と勤務地を変えながら、音楽教育への探究を続けます。

終戦後、1947年からは広島県立上下高等学校で教鞭を執り、佐々木幸徳（基之）が提唱した分離唱を取り入れた合唱指導を行いました。その時の教え子には、俳優の平幹二朗がいます。

1958年に教職を退いた後、広島市佐伯区吉見園に移り住み、長年の夢であった音楽教室「杉の子会」を開設しました。幼少期からの音感教育に力を注ぎ、50年にわたって指導を続けました。その指導を受けた生徒は500人を超え、中には作曲家の糀場富美子、指揮者の大植英次など、著名な音楽家も含まれています。

音感教育への情熱と影響

戸田の音楽教育は、単に楽器の演奏技術を教えるだけでなく、音楽を通して豊かな感性を育むことを重視していました。特に、幼少期からの音感教育に力を入れ、生徒たちが音楽の基礎をしっかりと身につけられるように指導しました。

彼女の教え子である大植英次は、アメリカ留学中に恩師レナード・バーンスタインから音感の良さを賞賛された際、「広島の音楽教室で学んだ」と答え、バーンスタインを驚かせたというエピソードがあります。その後、バーンスタインが広島平和コンサートで来日した際には、戸田と面会し、「あなたは偉大な音楽教師だ」と賛辞を送りました。

晩年と遺産

2019年4月に100歳を超えて亡くなった後、愛用のグランドピアノが故郷の島根県飯南町に寄贈されました。これは、戸田の音楽への情熱と、故郷への愛情を象徴する出来事として、人々の心に深く刻まれています。

戸田繁子は、その生涯を音楽教育に捧げ、多くの音楽家を育て上げました。彼女の情熱と教育理念は、今後も多くの人々に受け継がれていくでしょう。

参考文献

「戸田繁子」『音楽年鑑 昭和45年版』音楽之友社、1970年、256頁。
芸術研究振興財団, 東京芸術大学百年史編集委員会 編『東京芸術大学百年史. 東京音楽学校篇第2巻』音楽之友社、2003年3月。
* 佐々木基之『耳をひらいてこころまで：分離唱のすすめ』音楽之友社、1987年。

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