手動指令照準線一致誘導方式

手動指令照準線一致（MCLOS）誘導方式：ミサイル誘導技術の黎明期

手動指令照準線一致（Manual Command to Line Of Sight, MCLOS）誘導方式は、ミサイル誘導方式の一種です。オペレーターがジョイスティックなどの操作装置を用いて、目標物に向けてミサイルを直接操縦する仕組みとなっています。ミサイルへの指令は、無線または有線通信によって伝達されます。

MCLOS方式の仕組みと特徴

MCLOS方式では、オペレーターは常に目標とミサイルの両方を視認し、その位置関係を把握しながらミサイルを誘導する必要があります。そのため、ミサイルの後部には、視認性を高めるためのフレア（閃光弾）が装備されているのが一般的です。このフレアにより、夜間や悪天候下でもミサイルの位置を把握しやすくなります。

しかし、この方式にはいくつかの欠点があります。まず、オペレーターの熟練度が命中精度に大きく影響します。長時間の訓練と高い集中力が必要であり、射手の技量によって命中率が大きく変動します。また、敵からの反撃によってオペレーターがミサイルの追尾を中断した場合、ミサイルは目標に到達できず、無駄弾となる可能性が高まります。さらに、航空機からの投下運用においては、着弾までミサイルの誘導を継続しなければならず、高速飛行中の航空機では誘導が困難になるという問題点も抱えていました。

これらの欠点から、MCLOS方式は、より高度な自動誘導方式が登場するにつれて、徐々にその地位を半自動指令照準線一致誘導方式（SACLOS）などに譲っていきました。SACLOS方式では、ミサイルの誘導をコンピューターが補助することで、オペレーターの負担を軽減し、命中精度を向上させることができます。

MCLOS方式の歴史

無線による遠隔操作の概念は、19世紀末にニコラ・テスラによって実験されました。その後、ジョン・ヘイズ・ハモンド・ジュニアらによる研究開発を経て、無線操縦技術は発展を遂げました。20世紀初頭には、スペインのレオナルド・トーレス・ケベードが「Telekino」と呼ばれる無線操縦システムを開発し、実演に成功しています。

第二次世界大戦中には、ドイツ軍がフリッツXやヘンシェル Hs 293といったMCLOS誘導方式の誘導爆弾を実戦投入し、大きな戦果を挙げました。日本軍も同様の兵器の開発を進めていましたが、実戦投入には至りませんでした。戦後、ソ連はドイツから接収したフリッツXを元に誘導爆弾の開発を進めましたが、ジェット爆撃機の高速化に伴い、MCLOS方式の欠点が顕在化し、開発は中止されました。

MCLOS誘導方式ミサイルの例

MCLOS方式は、対戦車ミサイル、空対地ミサイル、空対艦ミサイルなど、様々なタイプのミサイルに採用されました。具体例としては、ヴィジラント、SS.10、SS.11、ENTAC、9M14、64式対戦車誘導弾（対戦車ミサイル）、フリッツX、Hs 293、AGM-12 ブルパップ、SNAB-3000、UB-2000F、AS-20、AS-30（一部）、イ号一型甲無線誘導弾、イ号一型乙無線誘導弾（空対艦ミサイル）、ブローパイプ、奮龍1型（地対空ミサイル）などがあります。

まとめ

MCLOS誘導方式は、ミサイル誘導技術の黎明期において重要な役割を果たした方式です。しかし、その欠点から、現代のミサイルではSACLOS方式やその他の高度な誘導方式に取って代わられています。MCLOS方式のミサイルは、軍事史において重要な位置を占め、現代のミサイル技術の発展に貢献しました。

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