手長足長

手長足長：各地に伝わる巨人の物語

手長足長は、東北地方から北陸地方にかけて伝わる、手足が異常に長い巨人の伝説上の存在です。その姿は地域によって差異が見られますが、共通して際立つのは、極端に長い手足です。一人の巨人であったり、長腕の妻と長足の夫といった夫婦、あるいは兄弟で描かれる場合もあります。

各地の伝説

東北地方

秋田県では、鳥海山に棲む手長足長が、その長い手足を用いて旅人を襲ったり、船を襲撃する悪行を重ねていたと伝えられています。鳥海山の神である大物忌神は、三本足の鴉を使って人々に手長足長の出現を知らせようとしますが、悪行は続き、最終的に慈覚大師の祈りの力によって、あるいは大師に降参したことで、その姿は消え去ったとされています。山形県でも、鳥海山にまつわる同様の伝説が残っています。

福島県会津若松の伝説では、磐梯山（古名：病悩山）の山頂に棲む手長足長が、雲で空を覆い、作物を枯らすなどの災厄をもたらしました。しかし、旅の僧侶（弘法大師とする説もある）が手長足長を山頂に封印し、磐梯明神として祀ったことで、災厄は終息し、山名も磐梯山に改められたと伝えられています。

北陸地方

福井県雄島の大湊神社の伝承では、島に最初に住み着いたのが手長足長であり、足長が手長を背負って海に入り、手長の長い腕を使って貝を海に落とし、魚をおびき寄せて生活していたと語られています。

神仙としての側面

荒々しい巨人としてのイメージとは別に、手長足長は神や神仙として崇められる側面も持ちます。

長崎県壱岐の天手長男神社、天手長比売神社は、手長足長を祀る神社として知られています。また、長野県諏訪市には手長神社と足長神社があり、そこでは手長足長を諏訪明神の眷属、あるいは奇稲田姫の父母である足名稚と手名稚とする説もあります。これらの神は、建御名方神と戦った神であったとする説も存在します。

柳田國男は、「てなが」という言葉が中世においては、給仕や従者を意味していた可能性を指摘し、巨人のイメージは後世になって付加された可能性を示唆しています。

中国との関連性

『大鏡』には、花山院天皇の時代に、硯箱に蓬莱山、手長、足長などを金蒔絵で描いた記述があり、既に平安時代末期には、手長足長が空想上の存在として認識されていたことがわかります。これは、中国に伝わる長臂人（ちょうひじん）や長股人（ちょうこじん）をモチーフに、天皇の長寿を願ったものと考えられています。清少納言の『枕草子』にも、清涼殿の障子に描かれた同様の絵画についての記述があります。

文化への影響

『宇治橋姫物語絵巻』など、物語文学にも手長足長は登場します。岐阜県高山の飛騨高山祭の山車や橋の欄干には、手長足長の彫刻が多く見られ、これは嘉永年間の宮大工が手名稚と足名稚として彫刻を施したことに由来すると言われています。江戸時代後期には、神仙としてのイメージと、異民族や妖怪としてのイメージが融合した、手長足長のイメージが定着していったと考えられています。

まとめ

手長足長は、地域によって異なる伝承を持ちながらも、その独特の姿と、善悪両面を含む多様なイメージによって、古くから人々の想像力を掻き立ててきた存在と言えるでしょう。その伝承は、自然崇拝、神道、仏教、そして中国文化の影響などが複雑に絡み合い、長い歴史の中で形成されてきたものと考えられます。 各地に残る伝説や、それらが反映された文化遺産は、日本の民俗信仰や文化の一端を垣間見せてくれる貴重な資料となっています。

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