抱え (相撲)

抱え（かかえ）についての解説

「抱え」とは、江戸時代における勧進相撲での力士の身分保障を指します。具体的には、力士が大名の家臣に取り立てられ、武士の一員としての地位を持つことを意味します。この制度の背後には、日本の歴史に深く根ざした相撲の文化が存在しています。

相撲は元々武士の間で行われていた武道であり、戦闘訓練の一形態として発展してきました。戦国時代には、多くの大名が自らの臣下として強力な相撲力士を取り立てました。徳川時代に入ると、戦乱が収まり、相撲は単なる武芸にとどまらず、エンターテインメントとしての性格を強めました。「相撲衆」という呼び名が使われるようになり、力士たちはその名のもとに大名の庇護を受けながら活動しました。

特に徳川時代初期の前田利常は、愛好する相撲の力士を50人抱え、その居住区域が「相撲町」と呼ばれるほどでした。また、同時期には越前松平家や小浜酒井家など、他の大名も相撲に熱を入れ、競技性よりも娯楽的な要素が強くなっていたことが見受けられます。しかし、町人の間で盛んに行われていた土地相撲、つまり勧進相撲は、参加する浪人たちの影響で争乱を引き起こし、江戸や大坂では相次いで禁令が出される事態となりました。そのため、大名たちの相撲熱も沈静化し、しばらくの間は衰退の道をたどります。

勧進相撲は、17世紀末に再び開催されるようになり、その際には大名たちも力士を抱える傾向が戻ってきました。しかし、この時代の大名の戦略が変わり、力士をスカウトする方法から、自藩内で職業力士を育成する方法へとシフトしました。また、各地の相撲興行にも積極的に力士を送り込む姿勢が見られ、力士の地位も、藩主の家臣としての立場から、より藩の看板としての役割へと変わっていきました。

18世紀後半に入ると、勧進相撲の関連制度が整備され、相撲人気は急速に高まります。大名たちの間には力士獲得に向けた熾烈な引き抜き合戦が繰り広げられ、各藩は優れた力士を獲得するために情報を収集し、戦略を立てました。力士たちにとっては、大名に抱えられることが、より安定した生活の保証にもつながるため、その魅力は非常に大きなものでした。

この時期、力士の出身地が番付表に記載される際には、自らの出身地ではなく抱えた藩の名称が書かれることが一般的でした。このように、力士たちの帰属意識は相撲部屋ではなく、藩に対して強くなっていきました。本場所では、同じ藩に抱えられた力士同士の取組が行われることはなく、逆に異なる藩の力士同士が対戦することが普通でした。

力士たちが各藩に帰属するようになると、勧進元はその獲得を关键視し、各藩との交渉を行うようになります。そして、大名の方針を尊重せざるを得ない場合も多く、場合によっては勝負の結果に政治的な調整が加えられることもありました。これにより、興行の公正性が損なわれる場合もあったとされています。

主な抱え力士としては、仙台藩の伊達家に連なる2代谷風梶之助、姫路藩の酒井家の雪見山堅太夫、初代不知火光右エ門などが有名です。また、出雲藩の松平家には雷電爲右エ門、稲妻雷五郎、高松藩松平家に初代谷風、久留米藩の有馬家には小野川喜三郎など、時代を象徴する力士たちが名を連ねています。これらの力士たちは、それぞれの藩において、その地位を確立しながら相撲の歴史に名を刻んでいきました。

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