持ち替え

楽器の持ち替えとは、演奏家が一つの楽曲や楽章を演奏する過程で、異なる複数の楽器を使い分ける技術です。これは、楽曲の多様な音色や表現 요구に応えるために行われます。

オーケストラにおける持ち替え

特にオーケストラでは、管楽器奏者が同族の派生楽器や、調性の異なる楽器に持ち替えることが一般的です。具体的には以下のような例が見られます。

フルート奏者: ピッコロへの持ち替えが代表的です。より高音域の色彩を加えるために行われます。
オーボエ奏者: コールアングレ（イングリッシュホルン）への持ち替えが多く見られます。独特の哀愁を帯びた音色が必要な場面で使われます。
クラリネット奏者: バスクラリネットへの持ち替えに加え、B♭管からA管、あるいはE♭管など、調性の異なるクラリネット間での持ち替えも頻繁に行われます。これは、楽曲の調性に合わせて持ち替えることで、より自然な響きや演奏の容易さを得るためです。
ファゴット奏者: コントラファゴットへの持ち替えが行われることがあります。オーケストラの響きの最低音域を支える役割を担います。

金管楽器においても持ち替えは見られます。

ホルン奏者: ブルックナーやリヒャルト・シュトラウスの作品などで、ワーグナーチューバへの持ち替えが指定されることがあります。
トランペット奏者: コルネットへの持ち替えが行われることもあります。トランペットよりも柔らかい音色が求められる場合に使われます。

オーケストラ以外の例

持ち替えはオーケストラに限られたものではありません。例えば、特定のアンサンブルやポップス、現代音楽など、幅広いジャンルで見られます。栗コーダーポップスオーケストラのアルバムのライナーノーツのように、各奏者が担当する持ち替え楽器が明記されているケースもあります。

特殊な持ち替え

歴史的な例として、モーツァルトの交響曲の中には、当時のフルート奏者がオーボエに持ち替えるよう総譜に指定されていたものがあります。ただし、現在では通常、異なる奏者がそれぞれの楽器を担当して演奏されます。

また、以下のような、比較的珍しい持ち替えが要求される楽曲も存在します。

シェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』におけるヴァイオリンとヴィオラの持ち替え。
イベールの交響組曲『パリ』におけるクラリネットとアルトサクソフォーンの持ち替え。

鍵盤楽器と打楽器

鍵盤楽器奏者の場合、楽器を持つわけではありませんが、オーケストラの中でピアノ奏者がチェレスタに持ち替える（「弾き替え」と称される）ケースがあります。これは、ピアノとは異なる幻想的な音色が必要な場合に指定されます。

打楽器奏者は、多様な打楽器を演奏するため、頻繁に楽器間を持ち替えるのが一般的です。しかし、伝統的なオーケストラにおいては、ティンパニ奏者はティンパニ専門であることが多い傾向にあります。

演奏上の考慮事項

楽器の持ち替えを行う際には、適切なタイミングが極めて重要です。多くの場合、楽章の間に持ち替えを行うか、同一楽章内であれば、持ち替えを行う直前に十分な長さの休符が必要です。これは、楽器を持ち替え、構え直し、息を入れる（管楽器の場合）といった物理的な準備に時間を要するだけでなく、以下の理由によります。

楽器は、演奏し続けることによって管体が温まったり、奏者が操作感に慣れたりすることで、本来の響きやコントロール性が向上します。別の楽器に持ち替えることは、温まっていない状態の楽器を再び演奏し始めること、あるいはどんなに優れた奏者でも、楽器の特性の違いによる一瞬の操作への不慣れや違和感を生じさせることを意味します。これらの要素を考慮し、持ち替えが必要な箇所では、演奏家がスムーズに移行し、すぐに最良の音色で演奏できるよう、作曲家は十分に余裕を持ったタイミングや休符を設ける必要があります。持ち替えは楽曲に彩りを与えますが、その実現には演奏家の技術と、作曲家の周到な配慮が不可欠です。

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