挿頭

概要

挿頭（かざし）とは、古代日本において神事や儀式を行う際に、人々が自身の髪や冠に挿した草花やそれに類するものを指します。これは単なる装飾品として身につける装身具とは一線を画し、あくまで儀礼を遂行する上で重要な役割を担う道具として扱われました。

用途と材料

挿頭は特定の儀式や祭りにおいて用いられ、その儀式の性格によって使用される植物が異なりました。また、個人の嗜好が多少反映されることもありましたが、その本質はあくまで儀礼的な側面にありました。材料としては、祭りの場やその周辺に生えている生花が基本でしたが、時代が下るとともに、絹糸を用いた造花や、金銀などの金属で精巧に作られた造花も使われるようになりました。現代においても、宮中行事の一部では、この伝統を受け継ぐ銀細工の挿頭が用いられています。

祭りとの関連性

挿頭は特に祭りにおいて重要な役割を果たしました。例えば、京都の賀茂神社（賀茂別雷神社、賀茂御祖神社）で行われる有名な祭礼、葵祭の行列では、参加する人々の装束に加えて、行列を引く牛車に乗る牛の頭にも、神社の紋である双葉葵の葉が飾られます。これは、賀茂神社の紋章が葵をかたどっていることに由来しており、祭りの参加者と神との間の結びつきを視覚的、象徴的に強化することを目的として行われています。

起源伝説

挿頭の起源については、日本の神話における芸能の神、そして巫女の祖神とされるアメノウズメノミコト（ウズメの尊）に求める説があります。天岩戸の前で神々を楽しませるために舞を披露した際、ウズメノミコトが自らの身に蔦を襷（たすき）や鉢巻のように巻きつけたことが、挿頭の始まりであるという伝説が語られています。

象徴的意味合い

挿頭には、単なる装飾や儀礼的な役割を超えた、より深い象徴的・呪術的な意味合いが込められていたと考えられています。元々、祭りの場で自生している生花を用いることが多かったことから、植物、特に樹木が持つとされる霊力との交流を図り、それを取り込むことによって自身の生命力を高めようとする、一種の共感呪術（J.G.フレイザーの『金枝篇』などで論じられる、類縁の思考に基づく呪術）の名残であるとする見方があります。また、収穫や自然の恵みに対する神への感謝を表し、自らが季節の移ろいや自然界のリズムと同調し、溶け合うことを願う目的でも使用されたとも考えられています。

具体的な例

挿頭として用いられた植物には様々な種類があり、特定の儀式や役割を持つ人々が身につけるものとして定められていました。代表的なものとしては以下が挙げられます。

葵祭の葵: 京都の賀茂神社の祭礼で、行列参加者や牛に飾られるフタバアオイ。
小忌（こいみ）の人の心葉（しんば）と日陰葛（ひかげかずら）: 神事において穢れを忌む小忌という役職の人が、冠に飾る心葉（梅の小枝などを用いる）と、日陰葛。
相撲節会（すまいのせちえ）の力士: 平安時代に行われた相撲節会で、力士たちが頭に飾ったとされる葵やユウガオ。キキョウを用いることもあったようです。
源氏物語「紅葉賀（もみじのが）」の紅葉と菊（移菊）: これはフィクションの例ですが、源氏物語の巻名「紅葉賀」では、主人公光源氏らが舞楽を披露する場面で、紅葉や菊（移菊）を髪や冠に挿す描写が見られます。

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