捜索救助用レーダートランスポンダ

捜索救助用レーダートランスポンダ（SART）とは

捜索救助用レーダートランスポンダ（SART）は、船舶の遭難や海難事故が発生した際に、遭難者の位置を特定し、迅速な救助活動を支援するための重要な非常用通信機器です。SARTは、防水加工が施された完全自立式のトランスポンダであり、救助機関が発信するレーダー波を受信すると、応答波を送信することで、レーダー画面上に遭難者の位置を表示させます。

SARTの仕組み

SARTは、捜索に使用される9GHz帯のXバンドレーダー波を受信すると、直ちに9.2GHzから9.5GHz帯の周波数掃引を行う周期約80マイクロ秒の鋸歯状の電波を送信します。この電波は、レーダー画面上にSARTの位置を内側から外側に向けて12点の破線で表示させ、破線の長さは15km（8海里）となります。この表示によって、遭難者のおおよその距離と方位を容易に特定できます。さらに、レーダー画面の映像だけでなく、特定のパルス音としても識別可能で、船の位置によって反響音が変化するため、周囲の船舶の隻数を判別することも可能です。

法規制と要件

SARTは日本で発明され、日本では電波法に基づき、一定の船舶への搭載が義務付けられています。搭載されるSARTは、無線機器型式検定に合格した製品であることが求められます。主に救命ボートなどで使用されることを想定しており、浮遊式で一次電池を電源としています。SARTには、作動開始から待機時間として96時間、質問波に対する応答波の送信時間が8時間可能であることなどの能力が定められています。総トン数20トン未満の小型船舶用には、送信能力は同じで待機時間が48時間に短縮されたものが指定されています。

非常用位置指示無線標識装置（EPIRB）との関係

非常用位置指示無線標識装置（EPIRB）は、GMDSS（海上における遭難及び安全に関する世界的な制度）で規定されており、国際航海を行う船舶への搭載が義務付けられた衛星通信用の機器です。EPIRB自体にはホーミング機能がないため、各救命ボートなどにSARTと併用することが、SOLAS条約（海上における人命の安全のための国際条約）で規定されています。

AIS-SART

AIS-SARTは、自動船舶識別装置（AIS）を使用したSARTシステムです。AISで使用されるVHF帯を使用し、位置情報を含んだ無指向性の電波を1分間に8回（161.975MHzで4回、162.025MHzで4回）自動送信する非常用通信機器です。AIS-SARTは、従来のSARTとは異なり、レーダー波には反応しません。送信距離はアンテナから見渡せる範囲のおよそ20海里から30海里（37～56km）となり、受信にはAIS受信機が設置された沿岸地域かAIS搭載船が付近にいる必要があります。近年では、AIS信号を受信できる人工衛星が整備されたことで、洋上での受信も可能となりました。AIS-SARTは、時刻と位置情報に衛星測位システム（GNSS）を使用し同期を図るため、従来のSARTよりも正確な位置情報が迅速に把握できるという利点があります。

まとめ

SARTは、海難事故における救助活動において、遭難者の位置を特定するための重要な機器です。従来のSARTに加えて、AIS-SARTの登場によって、より広範囲での位置特定が可能となり、救助活動の効率化に貢献しています。

関連項目

ビーコン
小型船舶用火せん

外部リンク

設備規則第45条の3の3第1項に規定する捜索救助用レーダートランスポンダ（LTL） - 総務省
レーダー・トランスポンダー - 日本財団図書館

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