授乳の聖母 (コレッジョ)

『授乳の聖母』（じゅにゅうのせいぼ、伊: Madonna del Latte, 洪: Szoptató Madonna, 英: Nursing Madonna）は、イタリア、ルネサンス期のパルマ派の画家コレッジョが1524年頃に制作した油彩画です。コレッジョを代表する聖母画の1つであり、幼児キリストに授乳する聖母マリアを描いています。制作経緯や発注主は不明ですが、17世紀初頭にはローマのアルドブランディーニ家のコレクションに含まれていたことが知られており、小型ながらも古くから高い評価を得ていた作品です。現在はハンガリーのブダペスト国立西洋美術館に所蔵されています。

作品

コレッジョは、授乳しようとする聖母マリアと、それを拒む幼児キリストを描いています。キリストは、右手を聖母の胸元に当てて身を仰け反らせ、授乳を拒んでいます。これは、画面右に現れた天使が持つ果物に心を奪われ、左手を伸ばしているためです。コレッジョは、キリストに果実をつかませることで、授乳の図像の中にキリストの離乳を表現しています。また、我が子を見つめる聖母には柔らかな微笑みと穏やかな視線を与え、母と子の親密な関係を絡み合う身振りで描いています。さらに、柔らかなヴェールや身体の丸みを強調する明暗表現によって、身体の線を和らげ、甘美で心安らぐ構図を創り出しています。

構図の中心は、幼児キリストの両腕が作る対角線であり、聖母の膝の上を滑るようなキリストの自然な動きは、ロンドンのナショナル・ギャラリーにある『籠の聖母』や、失われた『カザルマジョーレの聖母』との類似が指摘されています。コレッジョは、イエスの身振りに宗教的な意味を持たせています。イエスが果物に手を伸ばす姿は、受難と磔刑の運命を受け入れることを象徴しています。また、この作品は深遠な神学的テーマを扱っており、無原罪の御宿りの教義を表現しているという主張もあります。

来歴

本作の制作経緯は不明です。最初の確実な記録は、1603年のローマのアルドブランディーニ家の目録です。この記録からも、当時のコレッジョの名声が伺えます。多くの複製やエングレーヴィングは、本作が非常に人気があったことを示しており、特にレリオ・オルシの絵画と素描から取られた古いエングレーヴィングの存在は、この絵画がエミリア地方の画家たちをいかに魅了したかを物語っています。また、ウルビーノ出身の画家フェデリコ・バロッチも本作を賞賛し、バロック時代にはフランドルの画家アンソニー・ヴァン・ダイクやピエトロ・ダ・コルトーナも魅了しました。ジョヴァンニ・ドメニコ・オットネッリ（Giovanni Domenico Ottonelli, 1584年-1670年）は、絵画と彫刻に関する論文の中で、宗教的な主題が計り知れない名声を得ることができる一例として、この小さな作品を取り上げました。オットネッリによれば、17世紀のローマの枢機卿たちは『授乳の聖母』を所有するために競い合ったといいます。

この絵画は、枢機卿ピエトロ・アルドブランディーニから、甥のイッポリト・アルドブランディーニ枢機卿、そしてその夫人に相続されました。最終的にオリンピア・アルドブランディーニによって別の枢機卿に寄贈され、所有者の死後に売りに出されました。その後、18世紀後半にはナポリにあり、1787年にナポリの美術商で本作を見たドイツの詩人ゲーテは、感動の言葉を残しています。「絵画は、赤ん坊が母親の母乳と、ケルビムによってもたらされたいくつかの梨との間で躊躇しているまさにその瞬間の、幼い子供と神の母親マリアを示しています。したがって、テーマはキリストの離乳です。アイデアは最も柔らかく、楽しげに制作された構図はダイナミックで自然、そして見事です」。しかし、ゲーテは絵画を購入することができず、1795年にナポリのミクローシュ・エステルハージ（Miklós Esterházy）によって購入されました。

ギャラリー

脚注

参考文献

ルチア・フォルナーリ・スキアンキ『コレッジョ イタリア・ルネサンスの巨匠たち28』森田義之訳、東京書籍（1995年）

外部リンク

ブダペスト国立西洋美術館公式サイト, コレッジョ『授乳の聖母（聖母子と天使）』

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