ピエトロ・ダ・コルトーナ
ピエトロ・ダ・コルトーナ（Pietro da Cortona, 1596年11月1日 - 1669年5月16日）は、本名をピエトロ・ベレッティーニ（Pietro Berrettini）といい、盛期バロックを代表するイタリアの画家であり、建築家でもあります。
1596年、ピエトロはフィレンツェ近郊のコルトーナで、石工の子として生まれました。彼はフィレンツェの画家コモディに師事し、1613年に師と共にローマへ移り、以後、主にローマで活動しました。ローマでは、銀行家のサッケッティ家に見出され、彼らのためにカステル・フサーノの別荘を神話や寓意をテーマにしたフレスコ画で装飾しました。また、この時期に、数々の絵画作品を制作しました。
彼の作品の中でも、特に有名なのは《サビニの女たちの略奪》（1629年頃）です。この作品は、彼の人物描写力や物語を描く能力の高さを証明する一方、心理描写の欠如という短所も示しています。彼のダイナミックな構図や人物の劇的なポーズは、当時のローマで主流であった古典様式やカラヴァッジョ風の写実表現とは一線を画しており、盛期バロックの特徴をよく表しています。
ピエトロの才能は、ローマの実力者であったフランチェスコ・バルベリーニ枢機卿の目に留まりました。枢機卿の叔父であるマッフェオ・ヴィンチェンツォ・バルベリーニが1623年に教皇ウルバヌス8世に選出されると、ピエトロは教皇庁関連の仕事も手がけるようになりました。ウルバヌス8世はガリレオ裁判に関わった教皇として知られていますが、芸術の保護者としても知られ、多くの芸術家に活躍の機会を与えました。
ピエトロは、パラッツォ・バルベリーニ（現ローマ国立美術館）2階広間の天井画という大仕事を任され、1633年から1639年にかけて制作しました。この天井画は彼の代表作となっています。また、1633年から1634年には、公立美術学校であるアカデミア・ディ・サン・ルカの校長も務めました。1637年から1647年にかけては、フィレンツェに滞在し、トスカーナ大公の依頼でピッティ宮殿の装飾に携わりました。その後、再びローマに戻り、晩年まで制作を続けました。
バルベリーニ宮殿の天井画《神の摂理》（《神の知》とも訳される）は、ピエトロの代表作であると同時に、イタリアの盛期バロックを象徴する傑作です。17世紀バロック建築の傑作の一つであるバルベリーニ宮殿の2階中央広間の天井に描かれており、幅15メートル、奥行き25メートルにも及ぶ巨大な画面には、多くの人物が配置されています。
画面の中心に描かれている「神の摂理」を象徴する女性像をはじめ、人物たちは空間に浮遊するように描かれており、天井がそのまま天空に続いているような錯覚を鑑賞者に与えます。この錯覚効果は、ソッティン・スー（目だまし風）と呼ばれる技法によって生み出されています。この技法は、二次元の絵画と建築装飾の区別を曖昧にするもので、ピエトロより前の世代のアンニーバレ・カラッチらも用いていました。カラッチのファルネーゼ宮殿の天井画では、天井を細かく区切ったクァドリ・リポルターティ（擬似額縁）という手法が使われていますが、バルベリーニ宮殿の天井画では、さらに進んだクァドラトゥーラという技法が使われています。この技法は、遠近法と錯視効果を駆使し、絵画、建築装飾、鑑賞者のいる現実空間の境界を曖昧にするものです。
《神の摂理》では、画面の四隅から立ち上がる装飾付きの柱と、その上部のコーニス（柱上部の水平材）によって、画面は大きく5つに区切られています。これらの建築部材はすべて平面に描かれたものですが、登場人物たちはこれらの区画を飛び越えて自由に飛翔しています。
作品の主題は複雑ですが、要するに教皇ウルバヌス8世の栄光を称えるものです。ウルバヌス8世の優れた治世によって「神の摂理」が実現したことを、様々な寓意人物像を通して表現しています。
ピエトロは建築家としての活動は比較的少ないものの、彼自身が建築を絵画の副次的な活動とみなしていたにもかかわらず、その影響は顕著です。建築作品としては、1634年から1650年にかけて聖ルカ聖女マルティーナ教会の建設に携わりました。1656年から57年にかけては、サンタ・マリア・デッラ・パーチェ聖堂のファサード、その後は、サンタ・マリア・イン・ヴィア・ラータ聖堂の建設に尽力しました。
建築家として有名になる以前、ピエトロは解剖学のイラストも描いていました。しかし、これらのイラストが出版されたのは、彼が亡くなってから1世紀後の1741年のことでした。彼の『解剖学イラスト(Tabulae anatomicae)』は、1618年頃に制作されたものです。人体を劇的なポーズで描き、正確に描写したこれらのイラストは、ルネサンス期からバロック期の芸術家の様式と共通する特徴を持っていますが、ピエトロの作品は特に表現豊かなものです。
『神の摂理とバルベリーニ家の権力の寓意』（バルベリーニ宮殿大広間天井画）（1633-1639年）ローマ国立古典絵画館
『サビニの女たちの略奪』（1629年頃）ローマ、カピトリーノ美術館
『聖フランチェスコの幻視』（1641年頃）アレッツォ（イタリア）、アヌンツィアータ聖堂
『カエサルがクレオパトラをエジプトの玉座に戻す』 (1637-1643年頃) リヨン美術館
ピエトロ・ダ・コルトーナは、その多才な才能によって、絵画、建築の両分野でバロック美術の発展に大きく貢献した芸術家です。
生涯
1596年、ピエトロはフィレンツェ近郊のコルトーナで、石工の子として生まれました。彼はフィレンツェの画家コモディに師事し、1613年に師と共にローマへ移り、以後、主にローマで活動しました。ローマでは、銀行家のサッケッティ家に見出され、彼らのためにカステル・フサーノの別荘を神話や寓意をテーマにしたフレスコ画で装飾しました。また、この時期に、数々の絵画作品を制作しました。
彼の作品の中でも、特に有名なのは《サビニの女たちの略奪》（1629年頃）です。この作品は、彼の人物描写力や物語を描く能力の高さを証明する一方、心理描写の欠如という短所も示しています。彼のダイナミックな構図や人物の劇的なポーズは、当時のローマで主流であった古典様式やカラヴァッジョ風の写実表現とは一線を画しており、盛期バロックの特徴をよく表しています。
ピエトロの才能は、ローマの実力者であったフランチェスコ・バルベリーニ枢機卿の目に留まりました。枢機卿の叔父であるマッフェオ・ヴィンチェンツォ・バルベリーニが1623年に教皇ウルバヌス8世に選出されると、ピエトロは教皇庁関連の仕事も手がけるようになりました。ウルバヌス8世はガリレオ裁判に関わった教皇として知られていますが、芸術の保護者としても知られ、多くの芸術家に活躍の機会を与えました。
ピエトロは、パラッツォ・バルベリーニ（現ローマ国立美術館）2階広間の天井画という大仕事を任され、1633年から1639年にかけて制作しました。この天井画は彼の代表作となっています。また、1633年から1634年には、公立美術学校であるアカデミア・ディ・サン・ルカの校長も務めました。1637年から1647年にかけては、フィレンツェに滞在し、トスカーナ大公の依頼でピッティ宮殿の装飾に携わりました。その後、再びローマに戻り、晩年まで制作を続けました。
バルベリーニ宮殿天井画
バルベリーニ宮殿の天井画《神の摂理》（《神の知》とも訳される）は、ピエトロの代表作であると同時に、イタリアの盛期バロックを象徴する傑作です。17世紀バロック建築の傑作の一つであるバルベリーニ宮殿の2階中央広間の天井に描かれており、幅15メートル、奥行き25メートルにも及ぶ巨大な画面には、多くの人物が配置されています。
画面の中心に描かれている「神の摂理」を象徴する女性像をはじめ、人物たちは空間に浮遊するように描かれており、天井がそのまま天空に続いているような錯覚を鑑賞者に与えます。この錯覚効果は、ソッティン・スー（目だまし風）と呼ばれる技法によって生み出されています。この技法は、二次元の絵画と建築装飾の区別を曖昧にするもので、ピエトロより前の世代のアンニーバレ・カラッチらも用いていました。カラッチのファルネーゼ宮殿の天井画では、天井を細かく区切ったクァドリ・リポルターティ（擬似額縁）という手法が使われていますが、バルベリーニ宮殿の天井画では、さらに進んだクァドラトゥーラという技法が使われています。この技法は、遠近法と錯視効果を駆使し、絵画、建築装飾、鑑賞者のいる現実空間の境界を曖昧にするものです。
《神の摂理》では、画面の四隅から立ち上がる装飾付きの柱と、その上部のコーニス（柱上部の水平材）によって、画面は大きく5つに区切られています。これらの建築部材はすべて平面に描かれたものですが、登場人物たちはこれらの区画を飛び越えて自由に飛翔しています。
作品の主題は複雑ですが、要するに教皇ウルバヌス8世の栄光を称えるものです。ウルバヌス8世の優れた治世によって「神の摂理」が実現したことを、様々な寓意人物像を通して表現しています。
建築
ピエトロは建築家としての活動は比較的少ないものの、彼自身が建築を絵画の副次的な活動とみなしていたにもかかわらず、その影響は顕著です。建築作品としては、1634年から1650年にかけて聖ルカ聖女マルティーナ教会の建設に携わりました。1656年から57年にかけては、サンタ・マリア・デッラ・パーチェ聖堂のファサード、その後は、サンタ・マリア・イン・ヴィア・ラータ聖堂の建設に尽力しました。
解剖学イラスト
建築家として有名になる以前、ピエトロは解剖学のイラストも描いていました。しかし、これらのイラストが出版されたのは、彼が亡くなってから1世紀後の1741年のことでした。彼の『解剖学イラスト(Tabulae anatomicae)』は、1618年頃に制作されたものです。人体を劇的なポーズで描き、正確に描写したこれらのイラストは、ルネサンス期からバロック期の芸術家の様式と共通する特徴を持っていますが、ピエトロの作品は特に表現豊かなものです。
代表作
『神の摂理とバルベリーニ家の権力の寓意』（バルベリーニ宮殿大広間天井画）（1633-1639年）ローマ国立古典絵画館
『サビニの女たちの略奪』（1629年頃）ローマ、カピトリーノ美術館
『聖フランチェスコの幻視』（1641年頃）アレッツォ（イタリア）、アヌンツィアータ聖堂
『カエサルがクレオパトラをエジプトの玉座に戻す』 (1637-1643年頃) リヨン美術館
ピエトロ・ダ・コルトーナは、その多才な才能によって、絵画、建築の両分野でバロック美術の発展に大きく貢献した芸術家です。
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