掌中橋

掌中橋（てなかばし）

掌中橋は、兵庫県加古郡稲美町に静かに佇む、歴史を感じさせる石造りとレンガ積みで構築された水路橋です。この構造物は、かつてこの地を潤していた淡河疎水の一部として重要な機能を担っていました。

構造と役割

掌中橋は、淡河疎水の中でも特に、蛸草支線にある北池から、同じく森安支線に位置する中場池へと水を送るための導水路として建設されました。水を運ぶために地面に沿って流すのではなく、特定の場所で他の水路や地形と交差する必要があったため、手中支線の上を立体的に越える形で架けられています。石とレンガという異なる素材を組み合わせて造られたこの水路橋は、当時の土木技術を伝える貴重な構造物と言えます。

歴史とその後の展開

長い間、地域農業を支える水路の一部として機能していた掌中橋ですが、時代の移り変わりとともにその役目を終えることになります。1998年（平成10年）に実施された印南地区の圃場整備事業において、水の送水方法が地中に埋設されたパイプラインへと変更されたため、開渠式の水路橋である掌中橋は不要となり、使用されずに放置されることとなりました。

しかし、この歴史的な構造物がそのまま忘れ去られることはありませんでした。放置期間を経て、2007年（平成19年）に「いなみ野ため池ミュージアム」の取り組みに関連して、掌中橋を地域の歴史的景観を構成する要素として保存することが決定されました。この決定を受け、掌中橋の周辺は公園として整備され、かつての水路橋は地域のシンボルとして新たな命を吹き込まれました。

新たな掌中橋

旧掌中橋から東方向へおよそ300メートルの地点には、「新掌中橋」と呼ばれる別の橋が架けられています。こちらは屋根の付いた木造の構造物であり、旧掌中橋とは異なるデザインと用途を持っているものと思われます。地域の交通や景観の一部として機能しているのでしょう。

アクセス

掌中橋へアクセスするには、公共交通機関を利用する場合、JR山陽本線の土山駅から神姫バスに乗車し、「母里」行きのバスで「中場」停留所（母里郵便局前）まで向かいます。バス停で下車後、蛸草交差点を目指し、そこから兵庫県道148号大久保稲美加古川線に入ります。内ヶ池の脇を通り、淡河疎水の手中支線に沿ってさらに進むと、徒歩でおよそ20分ほどで掌中橋に到着します。周辺は公園として整備されており、ゆっくりと散策しながら訪れることができます。

掌中橋は、かつてこの地域を潤した水利施設の歴史を今に伝える貴重な遺構であり、公園として整備されたことで、地域住民や訪問者が歴史と触れ合える場となっています。

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