接合 (生物)

接合（せつごう）

生物において、特定の性質（交配型など）が一致する細胞同士が接触し、遺伝子のやり取りや細胞融合を通じて、親とは異なる遺伝的構成を持つ子孫や細胞を生み出す一連の現象を指します。これは、一般的に有性生殖を構成する重要な段階と考えられています。ただし、染色体が減数分裂の際に相同染色体とペアを組む「対合（たいごう）」も接合と呼ばれることがありますが、細胞間の現象としての接合とは区別されます。

接合の主な類型

接合と呼ばれる現象には、主に以下の類型が見られます。

1. 細胞の融合と一体化: 二つの細胞が文字通り合体し、一つの細胞（接合子）を形成するものです。真核生物に広く見られ、配偶子が融合する受精もこれに含まれます。明確な配偶子を形成せず、栄養体細胞が直接融合する場合に特に「接合」と呼ぶことがあります。
2. 細胞間での遺伝情報交換: 細胞そのものは融合せず、二つの細胞間で相互に遺伝情報のやり取りが行われるものです。真核生物の繊毛虫類に特徴的な現象です。減数分裂を経て生じた核が交換され、互いの細胞内で融合します。
3. 一方的な遺伝情報伝達: 一方の細胞（供与側）から他方の細胞（受容側）へ、遺伝情報が一方的に伝達されるものです。主に原核生物である細菌に見られ、「細菌の接合」と呼ばれます。

これらの異なる形態の接合は、他個体や他系統との間で遺伝子を交換し、新たな遺伝子の組み合わせを生み出すという点で共通しています。

真核生物における一般的な接合

真核生物に見られる典型的な接合では、二つの細胞が互いに接触し、細胞膜が融合して一つの細胞となります。その後、その細胞内でそれぞれの細胞に由来する核が融合します。融合する細胞を「配偶子（はいぐうし）」、融合によって生じた細胞を「接合子（せつごうし）」と呼びます。単細胞生物では、栄養体細胞がそのまま配偶子として振る舞う例が多くあります。多細胞生物でも、アオミドロのように栄養体細胞が配偶子となる場合や、大部分のように配偶子として特殊な細胞を形成する場合があります。

配偶子の形態に違いが見られない場合を「同型配偶子接合（どうけいはいぐうしせつごう）」と呼びますが、多くの場合、大小の差が見られ、これを「異形配偶子接合（いけいはいぐうしせつごう）」といいます。特に、大きく不動性の卵と、小さく運動性の精子という極端な分化が見られる場合の接合は、特に「受精（じゅせい）」と呼ばれます。

やや特殊な真核生物の接合

配偶子が明確な細胞として形成されない接合も見られます。

配偶子嚢接合（はいぐうしのうせつごう）: ケカビなどの接合菌類では、菌糸から伸びた特殊な枝の先端が膨らみ、これが向き合って融合します。この膨らみは「配偶子嚢」と呼ばれ、その内部に配偶子を作る過程を省略して、配偶子嚢同士が融合したと見なすことができます。被子植物の花粉管内の精子は独立した細胞になりませんが、胚嚢には卵細胞が形成されるため、これを配偶子と配偶子嚢の接合として捉えることもあります。
担子菌・子嚢菌の接合: 担子菌類では、一般的な菌糸の融合が起こります。また、これらの菌類では細胞質の融合（形質接合）と核の融合（核接合）が時間的に隔たって起こる点が特徴です。細胞が融合して二つの核を持つ状態（二次菌糸）で成長・分裂し、この状態は子嚢や担子器が形成されるまで維持されます。

核相の変化

多くの場合、接合に先立って減数分裂が行われ、細胞の核相が単相（染色体数がn）になります。接合によって二つの単相の核が融合すると、接合子は複相（染色体数が2n）となります。動物では通常、配偶子形成の直前に減数分裂が起こり、配偶子のみが単相です。一方、植物や藻類では、単相の栄養体が生活環の大部分を占める種も少なくありません。接合と減数分裂が生活環のどの段階で起こるかは、生物群によって多様です。

繊毛虫類の接合

ゾウリムシなどの繊毛虫類に見られる接合は、細胞が完全に融合せず、二個体が腹面で接触し、遺伝物質のやり取りを行った後に再び分離するという独特な様式です。

ゾウリムシの細胞には、代謝などを司る大きな大核（だいがく）と、生殖に関わる小さな小核（しょうかく）があります。接合時には大核は消失し、小核が減数分裂を行って複数の核を生じます。これらの核のうち一部が相手の細胞に移動し、それぞれの細胞内で残った核と移動してきた核が融合して新しい小核が形成されます。この新たな小核を元に、接合後の細胞で再び大核が作られます。細胞自体は融合しないものの、減数分裂とそれに続く核の融合によって遺伝的な再構成が行われるという点では、他の真核生物の接合と共通性があります。

細菌の接合

細菌の接合（bacterial conjugation）は、二つの細菌細胞が直接接触し、一方の細胞から他方の細胞へ遺伝子の一部、特にプラスミドDNAが伝達される現象です。これは、細菌における「遺伝子の水平伝播」の主要なメカニズムの一つであり、薬剤耐性遺伝子などが集団内に広がる上で極めて重要です。

薬剤耐性を持つプラスミドを持つ細菌（供与菌）と、そのプラスミドを持たない細菌（受容菌）が接合すると、供与菌はプラスミドを複製しながらその複製を一本鎖として受容菌へ送り込みます。受容菌内でその一本鎖を鋳型に二本鎖DNAが合成され、受容菌もそのプラスミドを持つようになります。これにより、受容菌は新たに薬剤耐性を獲得します。

薬剤耐性だけでなく、特定の難分解性有機物を分解する能力を持つ遺伝子なども、この細菌の接合を通じて細菌集団内に広まることが知られています。

接合は、生物界に多様な形態で存在する、遺伝的多様性を生み出すための基本的なプロセスの一つと言えます。

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