雲隠六帖

『雲隠六帖』：『源氏物語』を彩る偽書の魅力

『源氏物語』には、多くの注釈書や続編、そして偽書が存在します。その中でも『雲隠六帖』は、偽書研究において頻繁に取り上げられる、興味深い作品です。紫式部が著したものではないことは明らかであり、中世王朝物語というジャンルに分類されます。

『雲隠六帖』の内容：光源氏と匂宮のその後

『雲隠六帖』は、全6帖から構成される比較的短い物語です。各帖のタイトルは、「雲隠」、「巣守」、「桜人」、「法の師」、「雲雀子」、「八橋」となっています。これらの物語は、『源氏物語』の世界観を踏襲しつつ、独自の解釈を加えています。

特に注目すべきは、物語の時系列的な位置付けです。大きく分けて、二つのパートから構成されていると考えられます。

一つ目は、「雲隠」です。これは、『源氏物語』において、光源氏と匂宮の間に存在したと考えられる空白期間を補完するような内容となっています。光源氏の出家など、原典では語られていないエピソードが描かれることで、『源氏物語』の世界観をさらに深く理解する助けとなるでしょう。

二つ目は、「巣守」から「八橋」までの五帖です。こちらは、「夢浮橋」の後の出来事を描いた後日譚と位置づけられます。匂宮の即位、薫と浮舟の結婚、そして彼らの出家といった、重要な出来事が描かれています。これらの物語は、原典の主要登場人物たちのその後の人生を垣間見ることができ、読者に新たな感動を与えます。

『雲隠六帖』の特異性：簡潔な記述と梗概書との関連

『雲隠六帖』は、『源氏物語』原典と比較すると、各帖の長さが非常に短いことが特徴です。物語の筋だけを簡潔にまとめた梗概のようなスタイルで書かれており、中世に流行した梗概書の影響を受けていると推測されています。この簡潔な記述は、複雑な『源氏物語』の世界観を、より手軽に理解したいという当時の読者のニーズに応えるためのものであったと考えられます。

『雲隠六帖』の刊本と参考文献

『雲隠六帖』は、様々な形で刊行されており、研究者による注釈や解説も数多く存在します。代表的な刊本としては、以下のものがあげられます。

山岸徳平・今井源衛編『宮内庁書陵部蔵青表紙本源氏物語 山路の露 雲隠六帖』（新典社、1970年）
今西裕一郎注釈「雲隠六帖」千本英史編『日本古典偽書叢刊 第2巻』（現代思潮新社、2004年）
小川陽子『「源氏物語」享受史の研究　付「山路の露」「雲隠六帖」校本』（笠間書院 、2009年）

また、以下の書籍も『雲隠六帖』の研究に役立つ参考文献です。

「雲隠六帖」伊井春樹編『源氏物語　注釈書・享受史事典』（東京堂出版、2001年）
* 神野藤昭夫「雲隠巻と『雲隠六帖』」『国文学解釈と鑑賞 別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 38 匂兵部卿・紅梅・竹河』（至文堂、2004年）

これらの刊本や参考文献を参照することで、『雲隠六帖』に関するより深い理解を深めることができます。

まとめ

『雲隠六帖』は、紫式部が著した『源氏物語』ではないものの、『源氏物語』の世界観を踏襲した、魅力的な偽書です。簡潔な文体で書かれた物語は、現代の私たちにも理解しやすく、中世の人々の『源氏物語』への関心の高さを垣間見ることができます。様々な研究成果や刊本を参照することで、『雲隠六帖』の奥深い世界を堪能できるでしょう。

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