改鈴谷型重巡洋艦

改鈴谷型重巡洋艦

改鈴谷型重巡洋艦は、大日本帝国海軍によって計画されたものの、完成に至らなかった重巡洋艦の艦級です。伊吹型重巡洋艦とも称されることがあります。

計画の経緯

この艦級の計画は、ロンドン海軍軍縮条約の失効後における日本海軍の重巡洋艦戦力の増強と維持という背景から生まれました。条約により重巡洋艦保有数に制限があった日本海軍は、条約失効後に最上型や利根型といった既存艦の主砲を20cm砲に換装することで、開戦時には重巡洋艦18隻体制を確立していました。改鈴谷型は、将来的な戦時消耗によって失われる艦艇を補充すること、そして目標とされていた重巡洋艦20隻体制を実現するため、1941年11月の昭和16年度戦時建造計画（通称マル急計画）において、新たに2隻の建造が計画されました。

翌1942年、第79回帝国議会でこの計画は承認され、1隻あたり6,000万円の予算が計上されました。計画された2隻のうち、1番艦（第300号艦）は呉海軍工廠で、2番艦（第301号艦）は三菱重工業長崎造船所でそれぞれ起工されました。しかし、ミッドウェー海戦での敗北に始まる戦局の悪化は、日本海軍の建艦計画に大きな変更をもたらしました。2番艦は起工から間もなく建造中止となり解体されました。1番艦「伊吹」も、当初は重巡洋艦として建造が進められていましたが、艦隊給油艦への改装案が一時検討された後、最終的には航空母艦への改造が決定されます。しかし、この空母への改造工事も戦況のさらなる悪化により、全体の約80%の進捗率で中断され、そのまま終戦を迎え、「伊吹」は未成艦としてその生涯を終えました。

艦型と性能

改鈴谷型は、戦時下における急速建造に対応するため、先行して建造された鈴谷型重巡洋艦の船体線図を流用して設計されました。基本的な船体形状は鈴谷型と共通ですが、上甲板のキャンバーはわずかに増やされています。また、計画段階から防空指揮所の設置が考慮され、後部マストの位置が第4主砲塔の直前に変更されています。

主武装としては、鈴谷型と同じく2号20cm連装砲を5基、計10門搭載する計画でした。使用される砲塔は利根型と同じE3型ですが、利根型で円錐台形だったリング・サポート部が円筒形に変更された点が異なります。高角砲は、当時日本海軍の標準装備であった12.7cm連装高角砲4基（A1型）が搭載される予定でした。機銃については、計画上は鈴谷型と同数の25mm連装機銃4基と13mm連装機銃2基でしたが、もし重巡洋艦として竣工していれば、戦局を反映してさらに多数の機銃が増設された可能性が高いと考えられます。

魚雷発射管は、最上型や利根型の3連装4基から強化され、改装後の妙高型や高雄型と同等の61cm4連装魚雷発射管4基を装備する計画でした。さらに、建造が進んでいた「伊吹」においては、航空兵装を廃止する代わりに、より強力な61cm5連装魚雷発射管を5基搭載する案も検討されていたと言われています。この強力な雷装計画からは、夜戦における魚雷攻撃力が重視されていたことがうかがえます。

防御構造も十分な考慮が払われていました。機関部の舷側は、長さ76.70mにわたって艦底に向かって内側に20度傾斜した装甲が施され、上部100mmから下部30mmへと厚みが連続的に変化するテーパード・アーマーとなっていました。水平防御は、中甲板の水平部が30mm、傾斜部が60mm厚の装甲板で覆われ、前後の隔壁は105mm厚でした。弾火薬庫周辺の防御はさらに厳重で、舷側は上部140mmから下部30mmへのテーパード・アーマー、水平防御は下甲板に40mm厚、前後の隔壁は95mmから140mm厚とされていました。舵取機室も舷側100mm、前後隔壁50mm、水平部30mmの装甲で防御されていました。

機関部については、鈴谷型や利根型と同様に艦本式ボイラー8基と艦本式タービン4基の組み合わせが採用されました。ボイラーの蒸気条件は、計画上は蒸気圧20kg/平方cm、温度300度とされていますが、鈴谷型などと同じ22kg/平方cm、300度とする資料も存在します。タービン配置は鈴谷型と同様に、前部のタービンが内側の推進軸を駆動する方式が採用されました。推進器直径は3.9mと計画され、最上型や利根型の3.8mからわずかに大型化されています。

同型艦

伊吹（第300号艦）: 呉海軍工廠で起工。重巡として建造中に空母への改造計画に変更。進捗率約80%で工事中止、未成。
第301号艦: 三菱重工業長崎造船所で起工。直後に建造中止、解体。

改鈴谷型（伊吹型）重巡洋艦は、日本海軍が戦時中に重巡洋艦戦力を維持・強化するために計画された最後の艦級でしたが、戦局の悪化という波に飲まれ、いずれもその本来の姿で完成することはありませんでした。

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