放浪三昧

1928年、サイレント映画の傑作『放浪三昧』：伊丹万作、稲垣浩のデビュー作

1928年（昭和3年）に公開された日本のサイレント映画『放浪三昧』は、日本映画史において重要な位置を占める作品です。伊丹万作の脚本家としてのデビュー作であり、同時に稲垣浩監督のデビュー作でもあるこの長篇劇映画は、片岡千恵蔵プロダクション設立後第2番目の作品として製作されました。

伊丹万作と『放浪三昧』の誕生

伊丹万作自身の回想によると、1927年10月、彼は先輩である伊藤大輔宅に身を寄せ、そこで2本のオリジナルシナリオを執筆しました。そのうちの1本が後に『花火』（1931年）として監督作品となり、もう1本が本作『放浪三昧』の原題『伊達主水』です。同年11月、伊丹万作は谷崎十郎プロダクションに参加しますが、同年12月末から翌年4月まで台湾を巡業し、帰国後、片岡千恵蔵プロダクションに助監督兼脚本家として参加することになります。そして、1週間で書き上げた『天下太平記』が同プロダクションの設立第1回作品として公開された後、既に完成していた『伊達主水』が製作されることになります。この作品が後に『放浪三昧』として世に出ることになるのです。

製作と配給

『放浪三昧』には、片岡千恵蔵をはじめ、伊丹万作自身、香川良介、林誠之助、成松和一、衣笠淳子、市川小文治など豪華な顔ぶれが出演しています。伊丹万作自身も「安藤兵衛」役で助演しており、撮影現場ではチーフ助監督を務めていました。撮影は、当時片岡千恵蔵プロダクションが自社撮影所を所有していなかったため、河合広始・田中十三の主宰する「日本キネマ撮影所」で行われました。しかし、本作公開前の同年7月末に配給元が瓦解したため、同プロダクションは次作から自主配給を余儀なくされることになります。

現存状況と映像媒体

現在、東京国立近代美術館フィルムセンターには本作の上映用プリントは所蔵されていません。しかし、マツダ映画社が「60分尺」の上映用プリントを所蔵しており、活弁トーキー版VHSが過去に発売されていました。さらに、「40分尺」バージョンも存在し、DVDとして発売されています。また、本作の脚本は『伊丹万作全集 第3巻』には収録されていません。

スタッフ、キャスト

監督：稲垣浩
原作・脚本：伊丹万作
撮影：石本秀雄
助監督：伊丹万作（チーフ助監督、ノンクレジット）
製作：片岡千恵蔵プロダクション
上映時間：約96分（8巻 / 1,978メートル）/現存版60分
フォーマット：白黒映画 - スタンダードサイズ（1.37:1） - 18fps - サイレント映画
公開日：日本 1928年8月1日
配給：日本活動常設館館主連盟映画配給社
初回興行：神戸・菊水館

キャスト：
片岡千恵蔵 - 伊達主水
市川小文治 - 伊達勘右衛門
中村寿郎 - 伊達小太郎
伊丹万作 - 安藤兵衛
林誠之助 - 安藤吉之助
衣笠淳子 - 安藤つや
松原敬六 - 関口多左衛門
矢野武男 - 関口蔵六
香川良介 - 無名の浪人
* 成松和一 - 近藤勇

まとめ

『放浪三昧』は、伊丹万作と稲垣浩の才能が結実した、日本映画史における貴重な作品です。サイレント映画ならではの表現や、当時の社会状況、映画製作事情を知る上で重要な資料と言えます。現存する複数のバージョンが存在することから、今後も様々な角度から研究、鑑賞されることが期待されます。また、この作品を機に、伊丹万作と稲垣浩という二人の巨匠の今後の活躍にも注目が集まりました。

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