教皇パウルス3世の肖像 (ティツィアーノ)

教皇パウルス3世の肖像

『教皇パウルス3世の肖像』は、イタリア・ルネサンス期を代表する画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1543年に描かれた油彩画です。この作品は、教皇パウルス3世が北イタリアを訪問した際に制作され、現在ではナポリのカポディモンテ美術館に所蔵されています。また、帽子を被っていない姿を描いたことから『帽子のない教皇パウルス3世の肖像』とも呼ばれます。

制作背景

この肖像画は、1543年4月にティツィアーノがフェラーラでパウルス3世と会見した際に描かれました。当時、ヨーロッパはトリエント公会議を控えており、政治的に非常に不安定な時期でした。そのような状況下で、ティツィアーノは教皇の老い、疲労、警戒心を率直に表現しつつ、その知性と鋭さを際立たせています。この作品は、ラファエロの『教皇ユリウス2世の肖像』から影響を受けているとされ、ティツィアーノ晩年の様式を示す大胆な筆致と形態の捉え方が特徴です。

作品の特徴

肖像画では、教皇パウルス3世が老齢であり、疲れた様子で描かれています。しかし、その表情には賢明さと鋭さが共存しており、見る者に深い印象を与えます。ティツィアーノの筆遣いは非常に大胆で、輪郭を明確にせず、色彩と光によって人物を表現する技法が用いられています。これにより、人物の存在感と内面的な特徴が強調されています。また、2年後にはカマウロ（教皇が被る赤い帽子）を被った姿を描いた『カマウロを被った教皇パウルス3世の肖像』が制作されており、本作とは異なる印象を与えます。

その後の歴史

この肖像画は、エリザベッタ・ファルネーゼによって相続され、その後、彼女の息子であるカルロス3世によって1734年にナポリへ移されました。現在では、カポディモンテ美術館に展示されており、多くの人々がその歴史的な価値と芸術的な美しさを鑑賞しています。また、この絵画には複数の複製が存在しており、トレド大聖堂にある複製は伝統的にティツィアーノの作品とされてきましたが、アンソニー・ヴァン・ダイクによる複製であるとする説もあります。

影響と評価

『教皇パウルス3世の肖像』は、ルネサンス期の肖像画として重要な作品であり、ティツィアーノの肖像画家としての才能を証明するものです。写実的でありながらも、人物の内面を深く掘り下げた表現は、後の肖像画にも大きな影響を与えました。

関連作品

• - 『カマウロを被った教皇パウルス3世の肖像』: 同じくティツィアーノが描いた、カマウロを被ったパウルス3世の肖像画。
• - ラファエロ『教皇ユリウス2世の肖像』：本作に影響を与えたとされる作品。

参考文献

• - Bondanella, Julia. The Life of Titian. Penn State University Press, 1996. ISBN 978-0-271-01627-6
• - Donatz, Andrea. "Titian and the Portrait of Paul III". Academia.edu, 2015
• - Zapperi, Roberto. "Alessandro Farnese, Giovanni della Casa and Titian's Danae in Naples". Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, Volume 54, 1991

外部リンク

• - ウィキメディア・コモンズには、教皇パウルス3世の肖像 (ティツィアーノ)に関するカテゴリがあります。

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