教育バウチャー

教育バウチャーとは

教育バウチャー（スクールバウチャー、エデュケーションバウチャー）とは、教育費を補助するための給付金制度です。この制度では、政府や自治体が発行するバウチャー（引換券）を子供や保護者に支給し、そのバウチャーを私立学校や塾などの教育機関で利用することで、学費の一部を支払うことができます。教育バウチャーの目的は、保護者が教育機関を自由に選択できるようにし、学校間の競争を促進することで、教育の質全体を向上させることです。

教育バウチャーの歴史

教育バウチャーの概念は、18世紀にトマス・ペインが、子供を学校に通わせることを条件とした補助金を提唱したことに遡ります。しかし、現代的な教育バウチャーの議論は、20世紀半ばにミルトン・フリードマンが、公立学校の非効率性を批判し、競争原理を導入するためにバウチャー制度を提唱したことから始まりました。フリードマンの提案は、政府の介入を最小限に抑えた「制約のないバウチャー」でしたが、その後、クリストファー・ジェンクスらは、貧困家庭への補助を強化するなど、より社会的な配慮を加えた「制約のあるバウチャー」を提案しました。

教育バウチャーの仕組み

教育バウチャーの基本的な仕組みは、政府や自治体が発行するバウチャーを保護者に支給し、保護者がそのバウチャーを私立学校などの教育機関に支払うことで、学費の一部を補助するというものです。バウチャーの金額は、公立学校の生徒一人当たりの教育費に近い金額に設定されることが多く、これにより、公立学校と私立学校の間で補助金の条件を対等にすることが目指されています。バウチャーの支給対象は、すべての子供とする場合と、低所得家庭の子供に限定する場合とがあります。

教育バウチャーのメリット

教育バウチャーを支持する人々は、以下のメリットを主張します。

学校選択の自由: 保護者は、子供のニーズや希望に合わせて、学校を自由に選択できます。
学校間の競争: バウチャー制度によって、学校間の競争が促進され、教育の質が向上します。
教育の多様性: 私立学校などの教育機関が多様化し、子供たちはより多くの選択肢の中から自分に合った教育を受けることができます。
教育費の公平性: 公立学校と私立学校の間で補助金の条件が対等になり、教育費の負担がより公平になります。

教育バウチャーのデメリット

教育バウチャーに反対する人々は、以下のデメリットを主張します。

学校間の格差拡大: バウチャーによって私立学校がエリート化し、学校間の格差が拡大する可能性があります。
教育機会の不平等: 低所得家庭の子供は、私立学校に通うための追加費用を支払うことが難しく、教育機会の不平等が生じる可能性があります。
公立学校の弱体化: バウチャー制度によって私立学校に生徒が流れると、公立学校の財政基盤が弱体化する可能性があります。
教育の質低下: 競争が激化すると、学校が教育の質よりも生徒の獲得を優先するようになり、教育の質が低下する可能性があります。

各国の教育バウチャー政策

世界各国で様々な教育バウチャー政策が導入されており、その内容は国によって異なります。

アメリカ合衆国: ミルウォーキー市やクリーブランド市などで、低所得家庭の子供を対象としたバウチャー制度が実施されています。また、フロリダ州では、成績の低い公立学校の生徒が私立学校を選択できる制度が導入されましたが、後に廃止されました。
オランダ: 1917年より、私立学校も公立学校と同様に政府から補助金を受け取る制度が導入されています。この制度により、私立学校が教育システムの重要な一部を担っています。
チリ: 1980年からバウチャー制度が導入され、私立学校の生徒数が増加しました。
イギリス: 1988年の教育改革で、学校選択の自由を拡大する政策が導入されました。
ニュージーランド: 1989年の教育自由化政策で、学校の自主性が拡大し、通学区域が廃止されました。
コロンビア: 1991年から貧困家庭の生徒を対象としたバウチャー制度が導入され、高校卒業率の向上などの効果が見られました。
* スウェーデン: 1993年に私立学校への公的補助金制度が導入され、私立学校の数が増加しました。

日本における教育バウチャー

日本では、教育バウチャー制度はまだ導入されていませんが、議論は活発に行われています。規制改革・民間開放推進会議は、教育バウチャー制度の導入を検討する必要があると提言し、文部科学省も研究会を設立して検討を進めてきました。2012年には大阪市長が学校外教育バウチャーの導入を提案するなど、教育バウチャーの議論は様々な角度から進められています。

学校外教育バウチャー

近年、学校教育だけでなく、塾、予備校、習い事、文化活動、スポーツ活動などに利用可能な学校外教育バウチャーの取り組みも行われています。これは、経済的な理由で学校外教育を受けられない子供たちに、平等な教育機会を提供することを目的としています。日本でも、いくつかのNPOや自治体が、学校外教育バウチャーを提供しています。

結論

教育バウチャーは、教育の質を向上させる可能性を秘めた政策ですが、その導入には慎重な検討が必要です。学校間の格差拡大や教育機会の不平等などのデメリットを最小限に抑えつつ、教育の質向上と多様性の実現を目指す必要があるでしょう。

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