敦煌 (小説)

小説『敦煌』の概要

『敦煌』は、井上靖による歴史小説で、1959年の『群像』誌に連載された後、同年11月に初版が講談社から刊行されました。本作は、新潮文庫からの重版も行われており、井上靖の「西域小説」の中でも特に重要な作品とされています。また、1960年にはこの作品と『楼蘭』によって毎日芸術賞を受賞するなど、文学的にも評価が高い作品です。物語は、後世に莫高窟で発見された文献の由来を描いています。

あらすじ

物語の舞台は北宋時代。主人公である趙行徳は、一生を決める大切な科挙の最終試験、「殿試」を受けるために首都の開封へとやってきます。期待と緊張が交錯する中、行徳は試験を待つ間に深い眠りに落ちてしまい、その結果、試験に失敗します。失意のうちに開封の街を彷徨う彼は、ある日、不貞を働いた女が「肉」として売られているのを目撃します。

その光景に心を痛めた行徳は、彼女を屠殺される運命から救うために思い切って「買い取る」ことにしました。無事に命を救われた女は、感謝の意を示すために一枚の布切れを彼に手渡します。その布には、彼が見たこともない文字が書かれていて、それは西夏文字であると判明します。

この出来事をきっかけに、行徳は西夏文字に強い興味を持ち、その学問を学ぶために西域への旅を決意します。この旅が、彼の人生を大きく変える運命の旅だったのです。

映画化

『敦煌』は初版が刊行された際から映画化の話が持ち上がりましたが、現地ロケの問題などが原因で実現は困難でした。しかし、1988年に至り、佐藤純弥監督のもと、大映が制作し東宝が配給する形で映画化が実現しました。この映画版は小説の持つ壮大なテーマと歴史的背景を視覚的に表現し、多くの観客から支持を受けました。映画は文献の深い知識や文化交流をテーマにしており、敦煌についての理解を深める助けとなる作品になっています。

関連項目

『敦煌』を理解する上では、いくつかの関連項目も重要です。敦煌文献はこの地域で発見された多様な文化遺産を指し、敦煌学はそれを研究する学問です。また、莫高窟はその中でも特に有名な仏教遺跡であり、西夏とその文字はこの物語の中で決定的な要素となっています。シルクロードの歴史や仏教の伝播も、物語の背景として重要な役割を果たしています。

『敦煌』を通じて、井上靖は歴史の深淵と人間の想いを見事に表現し、読者の心に残る作品となっています。

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