敦盛 (能)

能 『敦盛』の世界

『敦盛』（あつもり）は、室町時代に世阿弥によって創作された能の一作で、古典文学『平家物語』や『源平盛衰記』に取材したものです。この作品は、平家の若武者平敦盛と彼を討った熊谷次郎直実（後に蓮生法師となる）の再会を描いたもので、優雅かつ感動的な物語が展開されます。

物語の背景

物語の核となるエピソードは、一ノ谷の戦いでの悲劇です。平家一門は敗北を喫し、戦闘の最中、逃げ遅れた平家の武将が源氏の武者である熊谷次郎直実に捕えられます。この平家の武将は、まだ十六、七歳と若く、直実は彼の年齢を考慮し、助命を試みますが、敵の軍勢が迫る中、やむなくその首を討つことになります。この武将が後に平敦盛であることが明らかになり、直実の心に深い影響を与えます。

能の構成

『敦盛』は、複式夢幻能の形式を採用しており、物語は三つの部分に分けられます。第一場では、直実が出家して蓮生法師となり、一ノ谷を訪れるところから始まります。そこで、草刈男たちが現れ、笛を吹いている様子に蓮生は疑念を抱きます。しかし、草刈男は、笛を吹くことは珍しいことではないと説明し、一人の男が敦盛であることをほのめかして消えます。

第二場では、蓮生が須磨の浦人から敦盛の最期について語られる間狂言が展開されます。浦人によると、敦盛は笛を取りに戻ったために船に乗り遅れ、直実に捕らえられたと語られます。

最後の場では、敦盛の亡霊が姿を現し、蓮生の弔いに感謝し、生前の思い出を語ります。この場面で、彼らは「法の友」としての絆を確かめ合います。

特徴と評価

『敦盛』は一般的な修羅能とは異なり、武士の悲劇に焦点を当てるのではなく、主人公たちの再会と友情を称賛する内容になっています。特に、敦盛の豪華さや、音楽・舞の楽しみを中心に据えている点が特色です。このように、敦盛の語りは単なる戦の悲劇を超え、彼の過去を飾る音楽や舞踏の思い出に溢れています。

この作品は、日本の古典芸能としての能の魅力を伝える重要な作品であり、観客に深い感動を与え続けています。

俗説と誤解

興味深いことに、織田信長が好んだのは能の『敦盛』ではなく、幸若舞の『敦盛』であるという誤解もあるため、注意が必要です。

参考文献

『敦盛』に関する詳しい情報は、以下の著作を参考にすると良いでしょう：

• - 梅原猛、観世清和監修『能を読む② 世阿弥――神と修羅と恋』
• - 権藤芳一『能楽手帖』
• - 佐藤謙三校註『平家物語 下巻』

このように、能『敦盛』はただの舞台演劇にとどまらず、歴史や人間の関係性を深く掘り下げた作品へと昇華されています。

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