文館詞林

『文館詞林』（ぶんかんしりん）は、中国唐代に勅命によって編纂された漢詩文集です。唐の高宗の顕慶3年（658年）に、許敬宗（きょけいそう）が勅を奉じて編纂しました。

この詩文集は、漢代から唐代初期までの詩文を幅広く収録しており、『文選』に次ぐ古い時代の総集として、文学史上重要な位置を占めています。当初は1000巻という大規模なものでしたが、唐代以降に散逸が進み、現在では数十巻のみが残存しています。

特筆すべきは、中国本土では早くにその多くが失われてしまったことです。しかし、日本ではその一部が保存されており、貴重な佚存書（いっそんしょ：散逸してしまった書物）として扱われています。特に、高野山にある正智院（しょうちいん）が所蔵する残巻12巻と、宝寿院（ほうじゅいん）の残巻1巻は、日本の国宝に指定されています。

歴史

『唐会要』巻36には、許敬宗が顕慶3年（658年）に『文館詞林』1000巻を編纂し、皇帝に献上したという記述があります。しかし、北宋時代に編纂された書籍目録である『崇文総目』には、「『文館詞林』弾事4巻、許敬宗編」と記載されているのみで、また『宋史』芸文志八にも許敬宗の『文館詞林』詩1巻しか見当たりません。これらのことから、五代十国時代を経て、宋代にはすでにそのほとんどが散逸していたと考えられます。

江戸時代の儒学者である林述斎（はやしじゅっさい）が編纂した『佚存叢書』に、『文館詞林』の残巻4巻が含まれており、この書籍が日本から中国に逆輸入されたことによって、再び中国国内でも『文館詞林』の存在が知られるようになりました。楊守敬（ようしゅけい）は、『佚存叢書』には含まれていない残巻14巻を日本で発見し、自身の編纂した叢書である『古逸叢書』に収録しました。

『文館詞林 影弘仁本』（1969年）は、正智院に所蔵されている弘仁14年（823年）の写本を中心に、27巻と巻数不明の残巻3種を影印したものです。

書誌情報

『文館詞林巻第六百六十八』（宮内庁書陵部、1949年）解説：神田喜一郎
『文館詞林 影弘仁本』（古典研究会、1969年）解題：阿部隆一、尾崎康
羅国威 整理『日蔵弘仁本文館詞林校証』（中華書局、2001年） ISBN 7-101-02413-0

関連項目

文苑英華
高野山霊宝館

外部リンク

尾崎康「文館詞林目録注」 慶應義塾大学附属研究所斯道文庫論集 第四集　1965年3月

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