斎藤憲広

斎藤憲広：戦国時代の吾妻を駆け抜けた武将

斎藤憲広は、戦国時代に上野国（現在の群馬県）吾妻郡を拠点とした国衆です。吾妻斎藤氏の一族であり、嶽山城を本拠としていました。この時代、吾妻郡には二つの斎藤氏が存在し、それぞれが地域を分割統治していたと考えられています。憲広は、そのうちの嶽山斎藤氏を率いていました。

生涯

出自と勢力拡大

斎藤氏は、吾妻郡東部の吾妻荘を拠点とする有力な国衆でした。大永年間には、吾妻荘を統括する勢力となり、さらに吾妻郡西部の羽尾氏、湯本氏、鎌原氏らを従えるまでに成長しました。久保田順一の研究によれば、吾妻斎藤氏は岩下城を拠点とする一族と、嶽山城を拠点とする一族に分かれ、それぞれが吾妻荘の西部と東部を分割統治していたと推測されています。斎藤憲広は、このうち嶽山城を本拠とした嶽山斎藤氏の当主でした。

後北条氏への従属

当初、両斎藤氏は関東管領・山内上杉憲政に従っていました。しかし、天文21年（1552年）に憲政が後北条氏に上野を追われると、情勢は一変します。永禄元年（1558年）6月には、北条氏康が安中重繁に吾妻谷への侵攻を命じ、翌年10月には両斎藤氏が後北条氏に従属したことが確認されています。

上杉謙信への接近と吾妻郡の統括

永禄3年（1560年）、上杉憲政を擁した長尾景虎（後の上杉謙信）が関東侵攻を開始すると、上野北部の沼田、岩下、明間城などが次々と攻略されました。この際、岩下斎藤氏は上杉軍の攻撃を受け降伏しましたが、憲広は早期から上杉方に従ったため、吾妻郡の統括者となりました。翌年に作成された『関東幕注文』には、岩下衆の筆頭として「斎藤越前守」の名前が記されています。

鎌原氏の追放と武田氏との対立

また、同年には羽根尾城の羽尾氏を支援し、武田氏に通じていた鎌原城の鎌原氏を信濃に追放しました。しかし、謙信の関東侵攻の翌年（1561年）11月からは、武田信玄による西上野侵攻が開始され、憲広も一時的に武田氏に従うことになります。翌年（1562年）3月には、信玄からかつて横領した鎌原重澄の所領を返還するように求められましたが、これを拒否しています。

長野原城攻略と離反

同年9月には、長尾憲景や羽尾道雲らと共に長野原城を攻略し、常田隆永を討ち取ったとされています（『加沢記』）。しかし、この出来事については事実ではないとする見方もあります。

上杉氏への再従属と吾妻郡からの退去

永禄6年（1563年）12月には、武田氏より離反して上杉氏に再び従属しました。これに対して武田軍は憲広を攻撃し、憲広は岩櫃城に籠城しますが、甥である岩下斎藤氏の斎藤弥三郎憲次が武田氏に寝返り、岩櫃城を乗っ取られてしまいます。これにより、憲広は嫡男の憲宗に助けられ、吾妻郡を退去し、越後へ逃れたとされています（『加沢記』）。

その後の動向

越後に逃れた後の憲広の動向は不明であり、その生涯は謎に包まれています。

参考文献

久保田順一『戦国上野国衆辞典』戎光祥出版、2021年
柴辻俊六、平山優、黒田基樹、丸島和洋『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年

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