加沢記

『加沢記』について

『加沢記』、または『加沢平次左衛門覚書』は、江戸時代中期に書かれた、真田氏と上野国（現在の群馬県）の歴史を記した史書です。著者は沼田藩士であった加沢平次左衛門で、戦国時代後期から江戸時代初期にかけての約50年間、特に利根郡と吾妻郡の出来事を詳細に記録しています。

概要

この覚書は、加沢平次左衛門が当時の史料や現地調査、口伝に基づいて執筆したと考えられています。実際に書かれたのは1681年頃ですが、一般に公刊されたのは明治時代になってからです。原本を基に浄書・編集されたものが『加沢記』として広く知られるようになりました。群馬県北部地域の歴史や地理を詳細に記しており、戦国時代から江戸時代初期にかけての重要な地域史料として評価されています。

特に、吾妻地方西部は他の史料が乏しいため、『加沢記』は最古の記録として非常に重要です。

著者：加沢平次左衛門

著者の加沢平次左衛門は、1628年に信濃国小県郡加沢村（現在の長野県上田市周辺）に生まれました。加沢家は元々、滋野氏の末裔である禰津氏の家臣でしたが、戦国時代後期に真田氏に従属。加沢平次左衛門の時代には、真田信之の家老として上野国利根郡川田一帯を領地として与えられました。その後も代々、真田家の家老を務めたとされています。

1628年頃、真田家は松代藩（現在の長野県長野市）を治めており、沼田は飛び地として、真田信之の長子、真田信吉に預けられていました。その後、真田家のお家騒動を経て、沼田は真田信利に分与され沼田藩として独立します。

加沢平次左衛門は、大笹関所の番人や勘定方、沼田藩主真田信利の右筆などを務めましたが、禄高は低かったようです。藩主の悪政に失望し、職を辞したとされています。その後、領民の直訴により藩主が改易され、沼田藩は廃藩となりました。加沢平次左衛門は、藩の内情について幕府の取り調べを受け、その際に提出した「上野国沼田領品々覚書」も貴重な史料として重要視されています。

浪人となった後は、川田城跡に住み、余生を過ごしました。法名を「覚誉皈本居士」といい、墓所は沼田市の重要文化財に指定されています。

執筆から公刊まで

加沢平次左衛門が『加沢記』の執筆を始めたのは、浪人生活に入ってからだと考えられています。原本は藩の勘定帳の裏に書かれたもので、毛筆で書かれており、解読が難しいものでした。

原本は利根郡政所村（現在のみなかみ町政所）の増田家に所蔵され、1782年に一部が浄書・加筆されて『加沢平次左衛門覚書』として紅葉山文庫に収められたのが初出です。増田家では3代にわたり研究が重ねられ、1832年には改訂版の『加沢記』が紅葉山文庫に納められました。増田頼興は、幕府の役人であり、幕末には横須賀造船所の創設にも関わった人物です。

一般に刊行されたのは1884年、史籍集覧に収録されてからです。その後、写本が作成されましたが、関東大震災で焼失。1924年に改めて活字版が作成され、公刊されました。

地方史としての価値

『加沢記』は、戦国時代から江戸時代初期の真田氏に関連する事柄をまとめたものです。特に軍記としての側面が強く、真田氏とその家臣団、関連する豪族たちの出自について解説されています。また、信濃国北部から上野国北西部にかけての寺社史や地誌も豊富に記録されており、地域史研究において非常に重要な資料とされています。

吾妻地方、特に西吾妻地方の江戸時代以前の歴史資料は乏しく、『加沢記』が最古の情報源であるため、この地域を研究する上で欠かせない資料です。

史料としての信頼性

『加沢記』は、真田幸隆の事績から始まり、天正壬午の乱、小田原征伐まで、真田氏の活躍を描いています。著者である加沢平次左衛門が生まれる前の時代についても記述しており、実際に現地を訪れたり、伝承や古文書を基に執筆したと考えられます。

『加沢記』には、当時の感状や安堵状などが引用されており、現存する一次史料との照合により、その信憑性が確認されている部分も多くあります。ただし、合戦の記述における兵数は誇張されている可能性や、真田氏以外の勢力に関する記述には、他の史料との矛盾が見られる点も指摘されています。

内容

増田家による校訂を経て公刊された『加沢記』は、全5巻で構成されています。内容は以下の通りです。

1巻: 真田氏の系図、幸隆の武功、岩櫃城の由来、沼田築城など
2巻: 羽尾氏の没落、吾妻郡の守護、武山合戦、川場合戦など
3巻: 昌幸の明徳寺攻撃、金子氏の動向、沼田平八郎の最期など
4巻: 甲州の没落、信長の死、家康への挨拶、猫城責めなど
* 5巻: 北条氏との対立、沼田領の境界線、猪俣氏による名胡桃城攻めなど

『加沢記』は、上野国、特に吾妻郡や利根郡の歴史を理解する上で、非常に重要な史料であると言えるでしょう。

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