斜面林

斜面林とは

斜面林とは、文字通り斜面に形成された森林のことです。関東地方では、谷津と呼ばれる地形の斜面部分に多く見られます。これらの森林は、平地林とは異なる独自の生態系を育んでおり、近年、その環境保全上の重要性が注目されています。

斜面林の生態系

関東地方、特に茨城県南部・千葉県北部・東京都東部などに広がる谷津の斜面に見られる斜面林は、その面積からは想像できないほど多様な生物が生息する豊かな生態系を保持しています。

斜面林は、最大で30メートル程度の高低差を持つ斜面に位置しており、水はけの良い台地に近い上部から、湧水が豊富で谷津に接する下部まで、様々な環境を含んでいます。斜面であるため、地図上の面積以上に実際の面積が広く、生物多様性にとって重要な役割を果たしています。

また、斜面林は水田にとって重要な水源林でもあり、古くから伐採が禁じられてきた場所も少なくありません。斜面は耕作や住居、道路の建設には不向きなため、土砂崩れを防ぐ目的でも森林が保護されてきました。さらに、斜面での伐採や運搬は平地に比べて困難であるため、スギやヒノキなどの針葉樹ではなく、根が深く安定したカシやシイなどの照葉樹林が残されてきた場所が多くあります。

照葉樹林は、関東地方以南の平地における極相（安定した状態の森林）であり、針葉樹の人工林に比べて、動物の餌となる果実やドングリなどの種子が豊富で、下草や低木も多く、森林の階層構造が発達しています。これにより、生物多様性が高く維持されています。二次遷移によって形成されたクヌギなどの森林であっても、人工林に比べて生物の多様性ははるかに高くなります。

斜面の向きによって日照条件が異なるため、生息する動植物にも違いが見られます。また、谷津を縁取るように位置することから、緑の回廊としての役割も果たしています。

斜面林の現状

都市部を除き、高度経済成長期以降も比較的維持されてきた斜面林ですが、近年、土木技術の発達と経済的な理由により、都市近郊でも開発が進み、マンションなどの建設用地として急速に失われています。これは、森林破壊という深刻な問題を引き起こしています。

斜面林は、多様な生物が生息する貴重な生態系であり、都市部の環境保全においても重要な役割を担っています。そのため、その保全と再生が急務となっています。

斜面林は、単なる森林ではなく、水資源の保全、土砂崩れの防止、そして生物多様性の維持といった、多岐にわたる重要な機能を果たしています。その価値を再認識し、未来の世代に引き継いでいくために、私たち一人ひとりがその保全に努める必要があるでしょう。

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