新しいミサ

新しいミサ：第2バチカン公会議後の典礼改革

1969年、カトリック教会は第2バチカン公会議（1962年～1965年）を受けて新しいミサ典礼様式を導入しました。一般に「新しいミサ」（英語: New Mass、イタリア語: la Nuova Messa、フランス語: la Nouvelle Messe）と呼ばれ、正式には「ミサの新しい式次第」（ラテン語: Novus Ordo Missae）あるいは「パウロ6世のミサ」とも呼ばれています。これは教皇パウロ6世が1969年4月3日、使徒憲章『ミッサーレ・ロマーヌム』に署名し許可したものです。ミサの原文はラテン語です。

歴史的背景：50年におよぶ典礼運動

新しいミサは突然生まれたものではありません。1920年頃から約50年にわたる「典礼運動」と呼ばれる教会内の改革運動の成果です。初期はドン・ゲランジェの影響が大きかったものの、後にランベール・ボデュアンの影響を受け、典礼の目的が礼拝から司牧へと重点が移行していきました。ボデュアンは、典礼を教会の一致のために適応させるべきだと主張しました。そのため、典礼運動はラテン語からの各国語への変更、言葉の典礼の重視、司式司祭の会衆への向き直し、プロテスタントとの一致などを目指しました。

規範ミサ「ミサ・ノルマティーヴァ」とその後

1964年、教皇パウロ6世は「典礼憲章実行委員会（コンシリウム）」を設立し、典礼改革を進めました。1967年には新しいミサの草案「ミサ・ノルマティーヴァ」（規範ミサ）が作成され、司教会議（シノドス）に提出されました。この草案は、典礼憲章に基づき、簡素化、聖書の朗読の充実、時代遅れな要素の削除などが行われたものでした。しかし、シノドスでは賛否が分かれ、パウロ6世は改訂を指示しました。その過程で、聖変化の言葉の変更などが行われました。

1969年4月28日の枢機卿会議で新しいミサが予告され、5月2日には使徒憲章『ミッサーレ・ロマーヌム』が発表されました。しかし、オッタヴィアーニ枢機卿とバッチ枢機卿は、新しいミサがトレント公会議のカトリック神学から逸脱していると批判する手紙をパウロ6世に送りました。この手紙と批判的研究を受け取ったパウロ6世は、教理聖省に精査を依頼しました。結果的に、新しいミサは1969年11月30日からイタリアで実施されることとなりましたが、その過程には様々な議論や修正、そして密かに加えられた発効日に関する記述など、様々な紆余曲折がありました。最終的に1970年3月、公式の規範版が発表されました。

新しいミサの目的：司牧とエキュメニズム

新しいミサの目的は、宣教と使徒職へのミサの適応（礼拝よりも司牧の首位性）と、エキュメニズムの促進です。これは第2バチカン公会議の精神を反映したもので、新しいミサ作成の中心人物であったアンニバレ・ブニーニ神父は、プロテスタントとの一致を目指して、ミサからプロテスタントにとって問題となる要素を取り除こうとしたと述べています。実際、新しいミサの策定にはプロテスタントのオブザーバーも参加していました。

新しいミサにおける変更点

新しいミサでは、ラテン語から各国語への変更が最も大きな変化でした。これは、第2バチカン公会議の典礼憲章で示唆されていたものであり、世界中で各国語によるミサが行われるようになりました。ただし、司祭はラテン語でミサを行うことも許可されています。他に、奉献文の簡略化、多くの動作や祈りの省略、聖変化の言葉の変更、複数の奉献文（典文）の追加、女性による典礼奉仕の許可などがありました。

新しいミサへの評価と批判

新しいミサは肯定的な評価と批判の両方を浴びています。肯定的な評価としては、非カトリックとの聖餐への参加の容易化などが挙げられています。一方、批判としては、ベネディクト16世による典礼の凡俗化、創造性の誤った行使への懸念、翻訳における問題、教皇権力の拡大などが指摘されています。ベネディクト16世は、新しいミサ典礼書の規定が忠実に守られず、典礼がゆがめられたことを批判しています。また、聖変化の言葉の翻訳においても、"pro multis"（多くの人々のために）を「全ての人々のために」と誤訳する問題が広く発生していました。

日本における新しいミサ

日本では、新しいミサの日本語訳に対する批判も多くありました。翻訳の困難さや、ミサの本質的なものの喪失などが指摘され、典礼式文の翻訳は長年課題となっています。1990年代以降は、様々な形態のミサが行われていましたが、2015年には典礼の統一化が図られました。

結論

新しいミサは、第2バチカン公会議後の教会の大きな転換点であり、その歴史や背景、変更点、評価などを理解することは、カトリック教会の理解に不可欠です。様々な議論や批判を踏まえつつ、今後もその意義や影響は検討され続けるでしょう。

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