新居格

新居 格（にい いたる）

新居 格（1888年3月9日 - 1951年11月15日）は、日本の多才な文筆家であり、短期間ながら政治家としても活動しました。評論、翻訳、創作など幅広い分野で足跡を残しています。

生涯と経歴

徳島県に生まれた新居格は、東京帝国大学法科大学政治学科で学びました。大学卒業後は、読売新聞や東京朝日新聞といった主要な新聞社で記者として働き、後に文筆業へと転じます。

大正から昭和にかけての時代、彼は鋭い視点を持つ評論家として活躍しました。特にモダニズム文学や当時の都市文化、風俗に対する深い知識を持ち、そのスタイルから新感覚派の一人に数えられることもありました。評論家の大宅壮一は、モダンガール（モガ）やモダンボーイ（モボ）といった言葉を新居格が生み出したと指摘しています。

翻訳家としても知られ、パール・S・バックの代表作『大地』の翻訳は広く読まれましたが、著作権侵害を巡る訴訟問題も抱えました。他にも、クロポトキン、マルロー、スタインベックなど、多様な海外作家の作品を日本に紹介しています。

政治思想としてはアナキズムに傾倒していましたが、戦後混乱期の政治にも関わります。1947年4月の第1回参議院議員通常選挙では全国区からの立候補を予定していましたが辞退しました。同年同月に行われた杉並区の公選区長選挙では、初代区長として推されて当選を果たしました。しかし、区長職はわずか1年で辞任しています。

区長辞任後も精力的な活動は続き、日本ペンクラブの幹事や日本ユネスコ協会の理事、生活協同組合の理事などを務め、講演や座談会を通じて社会に発言を続けました。労働運動家・農民運動家として知られる賀川豊彦は、彼にいとこにあたる関係でした。

1951年11月15日、脳溢血により63歳でこの世を去りました。

主な著書・訳書

新居格は生涯にわたり多くの著作と翻訳を発表しました。評論集としては『左傾思潮』『近代心の解剖』『アナキズム芸術論』などがあり、創作集『月夜の喫煙』、随筆集『生活の錆』なども刊行されています。訳書としては、前述のパール・S・バック『大地』のほか、クロポトキン『ロシヤ文学』、マルロー『熱風』、スタインベック『怒りの葡萄』などが挙げられます。彼の著作や翻訳は、大正から昭和初期にかけての日本の思想・文化状況を知る上で貴重な資料となっています。

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