新感覚派

新感覚派とは

新感覚派は、大正後期から昭和初期にかけて、日本の文学界に登場した革新的な文学運動です。1924年（大正13年）に創刊された同人誌『文藝時代』を母体とし、横光利一、川端康成、中河与一といった新進気鋭の作家たちが中心となって活動しました。この文学思潮は、従来の文学形式にとらわれず、感覚的な表現や新しい文体を用いて、近代社会における人間の意識や感覚を捉えようとしました。

『文藝時代』創刊時、評論家の千葉亀雄がその斬新な言語感覚に着目し、「新感覚派」と命名したことが、文学史上の用語として定着しました。新感覚派は、同時期に台頭したプロレタリア文学と並び、大正後期から昭和初期の文学界における二大潮流の一つとなりました。モダニズム文学の潮流に乗り、伝統的な文学手法からの脱却を目指しました。

特徴と傾向

第一次世界大戦後のヨーロッパで生まれたダダイズムやアバンギャルド運動、ドイツ表現主義などの影響を受け、新感覚派の作家たちは、従来の文学にはない新たな表現方法を模索しました。彼らの作品には、美術や音楽のような感覚的な要素が強く、詩的な美しさ（ポエム）が漂うのが特徴です。

新感覚派は、伝統的な私小説リアリズムを超えて、言語表現の独立性を重視しました。近代という状況・感覚・意識を基調に、主観的に把握し、知的に再構成した新しい現実を、感覚的な描写で表現しました。横光利一の『頭ならびに腹』の冒頭部分「真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。」のように、擬人法や比喩を駆使した表現は、従来の日本語の文体に大きな影響を与えました。川端康成は、新感覚的表現を「知覚の新しい方向への開拓」と説明し、感覚を重視した表現を追求しました。

活動の概略

新感覚派の活動は、小説執筆にとどまらず、映画制作にも及びました。1926年には、横光利一が企画し、川端康成がシナリオを担当した映画『狂った一頁』が制作されました。この映画は、説明的な映像に頼らず、純粋な映像美を追求したアヴァンギャルド作品として、大きな話題を呼びました。

また、1927年から1929年にかけては、プロレタリア文学派との間で「形式主義論争」が繰り広げられ、文学理論の面でも活発な議論がなされました。横光利一の評論「新感覚派とコンミニズム文学」は、新感覚派の理論的な拠り所となりました。しかし、1925年には今東光が離脱し、片岡鉄兵が左傾化するなど、新感覚派の内部でも変化が見られました。1927年、同人誌『文藝時代』は終刊となり、新感覚派は一つの転換期を迎えます。

その後、1930年には中村武羅夫、尾崎士郎、川端康成らが中心となり「新興芸術派倶楽部」が設立されましたが、新感覚派の黄金時代は終わりを告げます。「新感覚派の天才」「新感覚派の雄将」と呼ばれた横光利一は、新感覚派の技巧的な文体と、自身の内面を率直に描くスタイルを融合させ、『春は馬車に乗つて』や『花園の思想』といった作品を発表しました。

横光利一は、その後「意識の流れ」を取り入れた新心理主義に移行しましたが、1931年には長編『上海』を発表し、新感覚派の集大成と位置づけられました。しかし、1931年の満州事変を境に、文学の流れは国策へと転換し、新感覚派も時代と共に終焉を迎えることとなりました。横光自身も後に文芸銃後運動に参加し、新感覚派は歴史の中にその名を刻むことになったのです。

新感覚派は、その革新的な試みと表現によって、その後の日本の文学に大きな影響を与えました。その功績は、今もなお、文学史の中で高く評価されています。

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