新川軌道

新川軌道株式会社とその軌道

新川軌道株式会社は、かつて富山県上新川郡大山町（現在の富山市の一部）に本拠を置いていた企業です。その前身は下山石灰株式会社であり、両社を通じて、後に日本の鉄道網の一部となる北陸本線や中越鉄道に続き、富山県内で三番目に開業したとされる新川軌道と呼ばれる鉄道路線（軌道）を運営していました。

この新川軌道の主な目的は、大山地区で産出される石灰岩や製造された石灰製品を輸送することでした。一般的な鉄道とは異なり、特定の貨物輸送に特化した専用軌道であり、動力は機関車ではなく人力によって貨車を操作する、いわゆる人車軌道として運用されていたのが特徴です。

設立前の背景と軌道計画

江戸時代後期から明治時代にかけて、大山町の和田川や小見川といった地域では、良質な石灰石の採掘と、それを用いた生石灰や消石灰の生産が非常に盛んになりました。明治30年代に入る頃には、石灰を焼く窯の数は100基を超え、年間生産高も1万トンを超える規模に達するなど、地域の一大産業へと成長していました。

しかし、原料である石灰石や製品となった石灰を運ぶ手段は、依然として山道を人手で運搬するという旧態依然とした方法に限られていました。この非効率的な輸送体制は、地域産業のさらなる発展を妨げる深刻なボトルネックとなっていたのです。この状況を打開するため、地域の有力者や有志たちが新たな輸送手段として、人力による軌道（人車軌道）の建設を模索するようになりました。その結果、1897年には小見村と東文殊村を結ぶ区間について、内務大臣からの軌道開設特許を取得するに至りました。

会社の発足と軌道建設

特許は得られたものの、この地域の石灰生産は多くの農家による副業的な性格が強く、産業全体の規模が小さく零細であったため、軌道建設に必要な多額の資金を地元だけで集めることは極めて困難でした。

こうした状況に目をつけたのが、富山市内で事業を展開していた起業家たちでした。彼らはこの未活用の軌道開設特許に着目し、これを基に新たな事業を興すことを計画。1898年、有志から特許を譲り受ける形で下山石灰株式会社を設立しました。本社は東文殊村に置かれ、設立当初の資本金は5万円でした。会社設立後、同社は早速、第一期工事として中地山から東文殊村までの区間で軌道の建設に取りかかりました。

営業開始、社名変更、そして終焉

建設が進められた軌道は、1900年6月には最初の区間での貨物輸送営業を開始しました。その後、1901年3月には会社の名称を新川軌道株式会社と改称しましたが、この頃から事業を取り巻く環境は厳しさを増していきます。国内経済が後退期に入ったことに加え、近隣の新潟県青海町（現在の糸魚川市の一部）など、新たな有力な石灰生産地が出現し、大山地区の石灰産業の相対的な重要性が低下していきました。これにより、地域全体の石灰生産量が減少し、それに伴って新川軌道の輸送量も次第に低迷する傾向が見られるようになりました。

経営状況は急速に悪化し、資金繰りも逼迫するようになりました。会社は何とか状況を打開しようと、経営改善策として路線の半分以上にも及ぶ区間の軌道を撤去し、規模を縮小するなどの合理化を計画しましたが、残念ながらこれらの試みが経営を好転させるには至りませんでした。結局、厳しい状況を乗り越えることができず、1909年1月には会社の解散登記が行われ、新川軌道株式会社はその短い歴史に幕を閉じました。富山県の石灰産業を支え、地域の発展に貢献することを目指した人車軌道とその運営会社は、外部環境の変化に対応しきれず、十数年でその姿を消したのでした。

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