村上兵衛

村上兵衛の生涯：軍人、評論家、作家としての足跡

村上兵衛（1923年12月6日 - 2003年1月6日）は、日本の陸軍軍人、評論家、そして作家として、激動の昭和時代から平成にかけて多方面で活躍した人物です。本名を村上宏城といい、兄に武藤電機創業者の村上稔夫がいます。また、妻は村上登久江です。

生い立ちと軍人への道

島根県浜田市で、陸軍軍人の父・正吉と、武藤信義元帥の姪である母・フジノの次男として生まれました。幼少期には父の転勤で上京し、その後、父の死をきっかけに、官費で教育を受けられる軍人の道を志すようになります。陸軍幼年学校への入学は一度失敗しますが、翌年、猛勉強の末に広島陸軍幼年学校に首席で合格。その後、陸軍予科士官学校、陸軍士官学校へと進み、軍人としてのキャリアを積んでいきます。

軍人としての経験

陸軍士官学校卒業後、近衛歩兵第6連隊に配属され、連隊旗手として勤務。東京が空襲にさらされる中、軍旗を守るという重責を担いました。また、陸軍士官学校の区隊長として、疎開先での劣悪な食糧事情や、前時代的な教育プログラムに疑問を抱き、生徒たちの健康を気遣う一方で、彼らから「ダラ幹」と批判されることもありました。

終戦時には、独断で東京へ向かい、陸軍省や近衛師団を訪問。戦争継続を主張するグループに加わりそうになったり、宮城事件に関与せずに済むなど、激動の終戦直後の状況を目の当たりにしました。

文筆活動と評論家としての活躍

復員後、東京大学ドイツ文学科を卒業。三浦朱門、阪田寛夫らと『新思潮』を創刊し、作家としての活動を開始。戦記作家として知られるようになり、処女作『聯隊旗手』を出版。阿川弘之や三島由紀夫とも親交がありました。

1956年には「戦中派はこう考える」を『中央公論』に発表し、論壇でも注目を集めます。大宅壮一の門下生としてジャーナリズム分野でも活躍。大宅の死後は、「近代日本」をテーマにした評論や史論、伝記の執筆に力を注ぎました。

『正論』や『諸君!』などの雑誌に多数の寄稿・連載を行い、「日本がダメなままを見続けて、終わるままにはいかない」と強い危機感を表明。没する直前まで言論活動を続けました。また、日本文化研究所の専務理事として、国際的な視野から日本文化を探求・発信する活動にも貢献しました。

西洋文明/西洋人観

村上は、西洋文明や西洋人に対して強い憧憬を抱いていました。西洋人が母国語を流暢に話すことを「生まれつきなめらかに話す」と驚き、西洋人には特別な才能があるかのように感じていたようです。ヨーロッパで下級の労働に従事する西洋人を初めて見た時に、珍しく感じたエピソードからも、西洋に対する特別な感情がうかがえます。

主な著作

村上兵衛は、数多くの著作を執筆しました。

『聯隊旗手』(1956年)
『女のオブジェ 足で書いたBG文明論』(1965年)
『青年の山脈 維新の中の生と死』(1966年)
『ヨーロッパ人類学入門』(1966年)
『近衛聯隊旗』(1967年)
『雲をつかむ男 前三洋電機会長井植歳男伝』(1969年)
『桜と剣 わが三代のグルメット』(1976年)
『新・連隊旗手、馬のある風景 ほか9篇』(1977年)
『ワコール物語』(1979年)
『国破レテ 失われた昭和史』(1983年)
『繁栄日本への疑問 戦中派は考える』(1984年)
『陸軍幼年学校よもやま物語』(1984年)
『陸士よもやま物語 予科本科篇』(1985年)
『歴史を忘れた日本人 繁栄の行きつく先』(1987年)
『アジアに播かれた種子』(1988年)
『黒部川 その自然と人と』(1989年)
『リンカーン 丸太小屋で生まれた偉大なる大統領』(1991年)
『ナポレオン ヨーロッパを席捲した不屈の革命児』(1992年)
『再検証 「大東亜戦争」とは何か』(1992年)
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』(1992年)
『国家なき日本 戦争と平和の検証』(1996年)
『昨日の歴史 大宅壮一と三島由紀夫の生と死』(2000年)

また、共著として以下のような作品もあります。

『日本を創る表情 ルポルタージュ ヒロシマから沖繩まで』(1959年)
『花の近衛兵よもやま物語』(1986年)



村上兵衛は、軍人としての経験を活かし、戦中・戦後の日本社会を鋭く見つめ、その現状を憂い、未来への提言を続けた人物でした。彼の著作は、現代の私たちが歴史を振り返り、未来を考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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