新東京百景

新東京百景（しんとうきょうひゃっけい）

「新東京百景」という名称は、主に二つの異なる取り組みを指して用いられています。一つは1980年代に東京都が実施した景勝地の選定事業、もう一つは昭和初期に制作された複数の版画作品シリーズです。

1982年の東京都による選定

1982年10月1日、「都民の日」が制定されてから30年を迎えたことを記念し、東京都が都内の優れた風景として100ヶ所を選定しました。これが一般的に知られる「新東京百景」です。この選定は、東京都民からの公募に基づいて行われ、都市の景観、豊かな自然、歴史的な名所や旧跡など、多岐にわたる都内の景勝地が含まれています。選ばれた100ヶ所は、区部から56ヶ所、多摩部から33ヶ所、そして島嶼部から11ヶ所という内訳になっています。

この選定に合わせて、選ばれた風景を描いた絵画も制作されました。これらの絵画は現在、江戸東京博物館に所蔵されています。

昭和初期の版画作品群

第二次世界大戦よりも前の昭和初期にも、「東京の百景」といったテーマで都市の風景を描いた版画作品が複数制作されています。中でも「新東京百景」というタイトルを持つ作品群は二つ、そして「昭和大東京百図絵」という関連する作品があります。

創作版画『新東京百景』

昭和初期、関東大震災で壊滅的な被害を受けた後の東京は、急速な復興を遂げていました。この変わりゆく都市の姿を捉えようと、創作版画の分野で活躍していた8名の版画家たちが共同で制作したのが、版画集『新東京百景』です。参加したのは、恩地孝四郎、諏訪兼紀、平塚運一、川上澄生、深沢索一、藤森静雄、逸見享、前川千帆といった面々です。

この作品集は1929年から1932年にかけて制作・発表されました。各作品は会員限定で頒布され、一部あたりわずか50枚という限られた枚数のみが流通しました。最終的に100作品が完成し、当時の東京の様々な情景が表現されています。全作品が揃ったコレクションとしては、東京都現代美術館が所蔵するもののほか、アメリカのカーネギー美術館やロンドンのコレクターの所有が知られています。

この貴重な作品群は、1978年に平凡社から愛蔵版として復刻出版されました。復刻版は330部限定で販売され、現代においても当時の東京を知る貴重な資料となっています。

川瀬巴水『新東京百景』（未完）

新版画の分野で名高い川瀬巴水も、1936年頃に同名の『新東京百景』を制作しています。しかし、こちらは残念ながら6作品のみで制作が中断され、未完のシリーズとなりました。

小泉癸巳男『昭和大東京百図絵』

関連作品として挙げられるのが、版画家 小泉癸巳男による版画集『昭和大東京百図絵』です。このシリーズは1928年から1940年にかけて制作が進められ、1930年から頒布が開始されました。第一景『永代と清洲橋』から第百景『兜町・取引所街』まで、計100作品が出版されており、作品の目録も作成されています。

小泉癸巳男の『昭和大東京百図絵』もまた、当時の東京の賑わいや風景を詳細に描写しており、昭和初期の都市景観を知る上で重要な作品です。このシリーズも、1978年に講談社から『版画・東京百景』というタイトルで復刻出版されています。

このように、「新東京百景」という名称や「東京百景」を冠する試みは、時代背景や媒体（選定事業か版画か）は異なるものの、それぞれの時代の東京の風景を切り取り、後世に伝える重要な役割を果たしています。

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