方姫

方姫（かたひめ）：水戸藩を襲った悲劇と種痘への影響

方姫（かたひめ）は、安永3年1月24日（1774年3月6日）に生まれ、寛政6年1月20日（1794年2月19日）に没した江戸時代中期の女性です。水戸藩第7代藩主・徳川治紀（とくがわはるのり）の御簾中（みすちゅう、正室）として知られています。

生涯

紀州藩主・徳川重倫（とくがわしげとも）の五女として誕生し、後に徳川治貞（とくがわはるさだ）の養女となりました。実母は伊藤四郎右衛門の娘・慈譲院（じじょういん）です。

寛政2年（1790年）4月9日、方姫は水戸藩主の世子（跡継ぎ）であった徳川治紀の正室として輿入れしました。その2年後の寛政4年（1792年）に栢姫（かやひめ）を、翌寛政5年（1793年）には綏姫（やすいひめ）という二人の娘を授かりました。

しかし、幸せな日々は長くは続きませんでした。寛政6年（1794年）1月に方姫は痘瘡（とうそう、天然痘）に罹患し、同年1月20日に21歳という若さで亡くなりました。さらに悲劇は続き、夫である治紀自身も痘瘡に感染してしまいます。治紀は幸いにも回復しましたが、同年3月には娘の栢姫が、7月には綏姫が相次いで亡くなるという不幸に見舞われました。

当時、治紀はまだ22歳という若さでしたが、方姫の死後、正室を娶（めと）ることはありませんでした。その後は側室との間に子をもうけ、そのうちの一人が後の水戸藩第9代藩主となる徳川斉昭（とくがわなりあき）です。

種痘推進への影響

徳川斉昭は、藩主となると積極的に種痘（しゅとう、天然痘の予防接種）推進政策を行いました。この背景には、『水戸藩医学史』にも記されているように、祖父や父から一家を襲った痘瘡の恐ろしさを聞かされていたことが影響していると考えられています。

方姫の死は、徳川家と水戸藩に大きな悲しみをもたらすと同時に、その後の種痘推進へと繋がる重要な出来事となりました。彼女の短い生涯は、病の恐ろしさを人々に認識させ、予防医療の重要性を訴えるきっかけとなったと言えるでしょう。

方姫の院号は恭嶽院（きょうがくいん）、別名は達子（たつこ）、常子（ときこ）。諡（おくりな）は恭穆夫人（きょうぼくふじん）です。

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