種痘

種痘：天然痘撲滅への道のり

種痘とは、天然痘を予防するための接種方法です。かつては天然痘患者の膿を健康人に接種する人痘法が行われていましたが、重症化するリスクがありました。その後、牛痘を用いた牛痘法が考案され、世界中に広まりました。しかし、後の研究で、ジェンナーの牛痘法は偶然の産物であったことが判明しています。

ワクチンの起源と開発

天然痘の予防接種は、古くから西アジアや中国で行われていました。中国では、天然痘患者の膿を健康人に接種する人痘法が用いられており、これが日本にも伝来しました。人痘法は一定の有効性がありましたが、重症化するリスクも伴っていました。

18世紀末、イギリスのエドワード・ジェンナーは、牛痘にかかると天然痘にかからないという伝承に着目し、牛痘を用いた安全な予防接種法を開発しました。この方法が世界中に広まり、天然痘の流行を抑制する上で大きな役割を果たしました。「ワクチン」という言葉も、この時に用いられたものです。

ジェンナーは牛痘の膿を用いたとされていましたが、後年の研究で、牛痘ウイルスと天然痘ウイルスには免疫交差がないことが判明しました。ジェンナーの成功は、牛痘の膿に混入していた別のウイルス、馬痘ウイルス（またはその近縁種）によるものであったと考えられています。

日本における種痘の伝来と普及

日本へ種痘が伝来したのは江戸時代後期です。1789年、長崎で学んだ緒方春朔が人痘法を改良して接種に成功しました。その後、1810年にはロシアから帰国した中川五郎治が牛痘を用いた種痘法を伝えましたが、広く普及するには至りませんでした。

種痘は、シーボルトら西洋医学者の活動や、各地の医師たちの努力によって徐々に普及していきました。しかし、痘苗の輸入や保存には苦労があり、痘苗の活着に失敗するケースも少なくありませんでした。

特に1840年代後半に紀伊国で天然痘が流行した際、小山肆成は自ら牛痘法の研究に没頭し、著書を著しました。また、笠原良策らの尽力により、海外から痘苗を輸入し、種痘が全国に広がっていきました。 この過程では、佐賀藩が積極的な役割を果たし、藩の支援の下、種痘が藩領内に広く普及しました。

種痘の普及には、多くの医師や藩の尽力があった一方、漢方医からの抵抗や、種痘に対する迷信や誤解もありました。 それでも、江戸幕府の蘭学解禁や、種痘の効果が広く認識されるようになったことによって、種痘は徐々に受け入れられるようになりました。

「お玉が池種痘所」の設立は、種痘普及における大きな転換点となりました。この種痘所は、多くの蘭方医の協力によって設立され、種痘の技術と知識の普及に大きく貢献しました。 種痘は、幕府直轄領の蝦夷地（北海道）でも実施され、アイヌの人々への種痘は、世界初の地域を対象とした天然痘根絶のための強制・義務による一斉種痘施術といわれています。

明治維新後と種痘法

明治維新後、政府は種痘の推進に力を入れ、種痘医の免許制度を設けました。長与専斎らの功績により、痘苗の安定供給体制が確立されました。1874年には「種痘規則」、1876年には「天然痘予防規則」が制定され、1909年には「種痘法」が公布されました。

1948年の予防接種法では、定期接種が義務化されました。しかし、種痘後脳炎などの副作用の問題も発生しました。1970年代には種痘後脳炎の被害が社会問題となり、集団接種は一部地域で中止されました。

種痘後脳炎と副作用

種痘は天然痘の撲滅に大きく貢献しましたが、深刻な副作用である種痘後脳炎の問題もありました。多くの乳幼児が犠牲となり、その被害は無視できない規模に達しました。製造方法の遅れや雑菌混入も問題視され、政府の対応の遅れも批判されました。

現在の種痘接種

天然痘の撲滅により、一般的には種痘は行われていません。しかし、生物兵器対策として、軍隊では海外派遣される隊員に対して集団接種が行われることがあります。

種痘の痕と接種方法

種痘の接種方法は時代とともに変化しました。かつては右上腕に十字型に傷を付ける「切皮法」が一般的でしたが、後に二又針を用いた「乱刺法」に変更されました。接種部位も、上腕から肩へと変化し、ケロイド発生の問題などもありました。種痘の痕は一生消えないことが多く、特に女性にとっては美容上の問題となる場合もあります。

まとめ

種痘は天然痘という人類の脅威を撲滅した歴史的功績を残しましたが、その過程には多くの困難や犠牲がありました。 種痘の歴史を学ぶことは、科学技術の進歩と社会問題への対応について考える上で重要な教訓となります。 種痘の普及に貢献した人々の努力と、種痘後脳炎などに見られる副作用の問題は、未来への教訓として、常に心に留めておくべきでしょう。

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