徳川治紀

徳川治紀

徳川治紀（とくがわ はるとし/はるのり）は、江戸時代後期の大名であり、常陸水戸藩の第7代藩主を務めました。

生涯

安永2年（1773年）に徳川治保の嫡男として誕生。幼名は鶴千代と名付けられました。文化3年（1805年）に父の死を受けて33歳で家督を継承し、藩主となりました。その治世は10年余りと短いながらも、藩政の難局に尽力しました。

治紀は藩主就任後、藩政の立て直しに尽力しました。父と同様に藩政に積極的であり、文武の奨励に力を注ぎました。特に異国船の出没が相次いだことから、武備の充実に力を入れ、軍制改革などを実行しました。文化4年（1806年）には、家臣に政事に関する意見を献上するよう命じ、学者である青山拙斎や藤田幽谷らが藩政改革案を提出しました。特に藤田幽谷を彰考館総裁に任命してからは、先生と呼び、政治について頻繁に意見を求めました。

治紀の治世の特徴として、父・治保、長男・斉脩のもとで行われた献金郷士制度の廃止が挙げられます。治紀の代には献金郷士を一切取り立てませんでした。しかし、藩財政は依然として厳しく、藩主就任翌年の文化4年（1807年）には、水戸藩で2度目となる藩士の禄の半知借上（給料50％削減）が行われました。この給与削減により藩士の生活が困窮する中、同年6月には異国船が初めて水戸藩の近海である鹿島灘に姿を現しました。以降、異国船の出没が頻繁になり、水戸藩は厳しい財政状況の中、海岸防備を強化する必要に迫られ、更なる生活の緊縮が求められることになりました。文化5年（1808年）には、水戸藩領東北に位置する多賀郡の海岸に小規模な海防詰所を設置しました。文化6年（1809年）3月には、水戸に帰国した治紀は領内を巡視し、水戸城内での練兵や城外での大規模な鷹狩りを数度にわたり行いました。江戸に戻った翌年の文化7年（1810年）12月には軍制改革が実施されました。その後、文化12年（1815年）2月には、支藩である守山藩領の鹿島郡松川（現在の茨城県大洗町）近海に異国船が現れたため、海防は一層強化され、水戸藩の海岸全域に軍が配備されることとなりました。

しかし、文化期の後半になると、改革の勢いは衰え、門閥派の家臣が台頭するようになりました。

文化13年（1816年）に江戸の藩邸で急逝。享年44歳。跡は長男の斉脩が継ぎました。

治紀の代の改革は目覚ましい成果を上げるには至りませんでしたが、質実剛健を目指した政治姿勢、彰考館の学者を積極的に登用したこと、そして沿岸防備などの政策は、三男の斉昭（斉脩の弟）に引き継がれることとなりました。

官歴

1774年（安永3年）10月24日 - 誕生。鶴千代を称する。
1785年（天明5年）4月19日 - 元服。将軍徳川家治の偏諱を授かり、治紀と名乗る。従四位上に叙し、左衛門督に任官。
1787年（天明7年）12月21日 - 正四位下に昇叙し、左近衛権少将を兼任。
1796年（寛政8年）12月15日 - 従三位に昇叙し、右近衛権中将に転任。
1805年（文化3年）12月10日 - 水戸徳川家の家督を相続し、水戸藩主となる。
1805年（文化3年）12月18日 - 参議に補任。
1816年（文化13年）閏8月19日 - 薨去。諡号：武公。

系譜

父：徳川治保
母：一条溢子（八代君） - 一条道香の長女
御簾中：方姫（達子・恭穆夫人） - 徳川治貞の養女、徳川重倫の娘
長女：栢姫（1792年 - 1794年）
次女：綏姫（1793年 - 1794年）
側室：染浦 （島田氏・容儀院）
三女：従子（偉姫）（1796年 - 1844年） - 二条斉信室
五女：規姫（1797年 - 1851年） - 松平義建室
側室：永 （外山補子・瑛想院）- 外山光実養女、町資補の娘
四女：清子（鄰姫）（1796年 - 1861年） - 鷹司政通室
六女：苞姫（厚姫）（1797年 - 1823年） - 松平頼誠室
三男：斉昭（1800年 - 1860年） - 第9代水戸藩主
側室：五百（浄生院） - 松永直良の娘
長男：斉脩（1797年 - 1829年） - 第8代水戸藩主
側室：八重崎 - 中山慶次郎の娘
次男：松平頼恕 （1798年 - 1842年）- 高松藩主
四男：申之允（1800年）
五男：松平頼筠（1801年 - 1839年） - 宍戸藩主
養子
* 養女：勝姫（松平頼慎の娘、母は妹・雅姫） - 英勝寺住持

血筋

女系ながら徳川秀忠と松平信康の血を引いています。

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