日光中宮祠事件

日光中宮祠事件

日光中宮祠事件は、1946年（昭和21年）に栃木県中禅寺湖畔で発生した強盗放火事件です。当初、警察は一家心中として処理しましたが、9年後の1955年に真犯人が逮捕され、事件の真相が明らかになりました。この事件は、推理作家の松本清張が小説の題材としたことでも知られています。

事件の概要

1946年5月4日未明、栃木県上都賀郡日光町（現在の日光市）中宮祠にあった旅館から出火し、旅館を含む6棟が全焼しました。焼け跡からは、旅館経営者のH（当時46歳）とその妻（同42歳）、Hの義父（同72歳）、そしてHの3人の子供たち（三男11歳、次女8歳、三女5歳）の計6人の焼死体が発見されました。

遺体には後頭部を切られたような跡がありましたが、当時の日光警察署はこれを無理心中と断定し、被疑者死亡として捜査を打ち切りました。しかし、実際には、この日の宿泊客であった在日朝鮮人のAとBが、帳場に侵入して金品を盗もうとしたところを一家に見つかり、旅館の台所にあった包丁で6人を殺害。現金と小切手などを奪い、旅館に放火して逃走したものでした。

事件の発覚と犯人の逮捕

事件から9年後の1955年5月、埼玉県で逮捕された犯人Cが、31件の強盗と5件の殺人について「自供」しました。これは、Cが取り調べでの待遇を良くしようとした嘘でした。この「自供」の中に、中宮祠の事件が含まれており、Hの長男が埼玉県警察に再捜査を依頼。その結果、Cの証言が刑務所で知り合った男から聞いた話であることが判明しました。さらに、盗まれた小切手が東京都内で払い戻されていた事実も明らかになりました。

再捜査が進む中、1956年7月30日、暴力団狩りで神奈川県川崎警察署に逮捕されたA（当時30歳）が、真犯人であることが判明しました。Aの取り調べにより、共犯者のB（当時31歳）の存在も明らかになり、Bは北海道の工事現場で働いているところを8月21日に逮捕されました。

事件のその後

この事件は、推理作家の松本清張によって、1958年4月に短編小説「日光中宮祠事件」として発表され、1959年にはテレビドラマ化もされました。この作品によって、事件は広く知られることとなりました。

犯人のAとBは、1957年7月22日に宇都宮地方裁判所で死刑判決を受けました。その後、1959年1月28日の控訴棄却、1960年6月10日の上告棄却を経て、死刑が確定しました。しかし、死刑執行は異例なほど長期間行われず、2人の死刑執行は、判決確定から14年後、事件発生から28年後の1974年6月6日に行われました。

この長期の死刑執行モラトリアム後の処刑は、当時東京拘置所で同房であった帝銀事件の死刑囚、平沢貞通に大きな衝撃を与えました。平沢は、自身の死刑執行に対する恐怖から、1か月後に心臓麻痺で倒れるという事態も発生しました。

まとめ

日光中宮祠事件は、初動捜査の不備、事件発覚までの長期化、そして死刑執行の異例な遅延など、多くの問題を抱えた事件でした。この事件は、当時の警察捜査のあり方や司法制度、社会の在り方を問うものであり、松本清張の作品を通じて、その教訓は今もなお語り継がれています。

参考文献

* 村野薫『日本の大量殺人総覧』新潮社、2002年、ISBN 4-10-455215-1

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