日咩坂鐘乳穴神社

日咩坂鐘乳穴神社：歴史と伝統が息づく岡山のパワースポット

岡山県新見市豊永赤馬に位置する日咩坂鐘乳穴神社は、その名の通り、大洞穴と呼ばれる日咩坂鐘乳穴を御神体とする神社です。古くからの歴史と、独特の祭祀、そして周辺の自然環境との関わりから、多くの参拝者を惹きつけています。

創建から現代までの歴史：神々の宿る地

神社の起源は古く、727年に行基によって創建された三尾寺に深く関わっています。三尾寺の縁起によると、802年には弘法大師が中興し、山門の鎮守として伊弉諾尊と伊弉冉尊が祀られたとされています。しかし、それ以前の705年には、大洞穴の頂上部に「秘坂大明神」が祀られていたとする説もあり、行基がこれを合祀して「比賣坂鍾乳穴神社」としたという説も存在します。

その後、多くの小社を合祀し、山頂から現在の社地へと遷座しました。社名は「ヒメミヤ」と略され、日咩宮の文字が当てられるようになりました。江戸時代には「日咩坂大明神」や「日咩宮」など、様々な名称で呼ばれていました。また、本宮山頂に残る小祀は奥宮と呼ばれ、特に「乳」の出ない女性からの信仰が篤かったと伝えられています。これは、社号に「乳」の字が含まれ、洞内の石筍が乳房に似ていることから生まれた信仰だと考えられています。

967年の延喜式神名帳には「比賣坂鍾乳穴神社」として記載されており、式内社として歴史的にも重要な神社であることがわかります。明治時代には村社となり、その後、周辺の神社を合祀して県社に昇格しました。祭神についても、当初は伊弉諾尊と伊弉冉尊でしたが、県社昇格後に変更されたと考えられています。現在の祭神は大己貴命を主祭神とし、他に数多くの神々が配祀されています。

独自の祭事：地域と一体となった信仰

日咩坂鐘乳穴神社では、独特の祭事が数多く行われています。年間の祭祀の世話や供物の準備は、氏子の中から選ばれた2組の当番制で行われています。当番は「悠紀当番（春当）」と「主基当番（秋当）」と呼ばれ、それぞれ屋敷内に仮殿を設けて神を勧請します。当番の期間中は、家屋の清掃や不浄な行為を避けるなどの厳格な決まりごとがありました。

主な祭事として、秋季例祭、お田植え祭、お箆焼供進祭の3つがあります。

秋季例祭: 旧暦9月29日（現在の11月11日）に行われ、近隣の八幡神社と共に神輿を奉じて御渡が行われます。これは、日咩坂鐘乳穴が別の洞穴に通じているという伝承に由来すると言われています。

お田植え祭: 約600年の歴史を持つお田植え祭は、新見市の重要無形民俗文化財に指定されています。旧暦9月午日（現在の6月11日）に、拝殿前で神事の後、境内を神田に見立てて田植えの所作が行われます。氏子たちは神事が終わった後に杉の葉を受け取り、田畑に立てて豊作を祈願します。

お箆焼供進祭: 古くからの祭りの形態を残すお箆焼供進祭は、旧暦11月と1月の午日に、悠紀当番と主基当番がそれぞれ行います。甘酒で練った米粉に干柿を混ぜ込んだ餅「お箆焼」を神に供え、氏子に配ります。この餅には邪気を払い、病気を癒す霊験があるとされています。

境内と建築：歴史を刻む建造物

境内の建造物も歴史を感じさせます。本殿は文化12年（1815年）の建立で、備中地方特有の建築様式が特徴です。拝殿は昭和61年（1986年）に改築されていますが、神楽殿は宝永4年（1707年）の建築と伝えられています。随身門や鳥居なども、江戸時代の建築物です。これらの建造物は、長い歴史の中で受け継がれてきた信仰の証と言えるでしょう。

日咩坂鐘乳穴神社は、自然と歴史、そして信仰が一体となった、貴重な場所です。訪れる人々に、静寂と神聖さ、そして歴史の重みを感じさせてくれるでしょう。

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