日本のメートル法化

江戸時代までの日本では、長さには「尺」、重さには「貫」を基本とする尺貫法が主要な度量衡体系として用いられていました。しかし、近代化を進める中で、国際的に広く使われていたメートル法への関心が高まります。日本にメートル法が本格的に紹介されたのは、1855年に郡上藩主の命により編纂された『西洋度量考』においてであったとされています。

明治時代に入り、国際標準への対応が求められるようになります。1875年にフランスでメートル条約が締結されると、各国への加盟勧誘が行われました。日本もドイツ帝国公使を通じて打診を受けましたが、この時は見送られ、同年政府が定めた度量衡取締条例により、引き続き尺貫法が公式な単位として維持されます。

しかし、メートル条約に基づく新しい国際原器が製作されるとの情報に接したことが契機となり、日本政府はメートル条約への加盟を決断します。1885年（明治18年）10月9日に加盟手続きを完了し、翌1886年（明治19年）4月16日にはメートル条約が勅令として国内に公布されました。この4月16日は、後に日本でのメートル条約公布を記念する日とされています。条約に基づき、日本にはメートル原器（No.22）とキログラム原器（No.6）が割り当てられ、1890年（明治23年）4月に日本へ到着しました。

条約加盟と国際原器の入手を経て、翌1891年（明治24年）には度量衡法が制定されます。しかし、当時国民生活に深く根付いていた尺・貫の使用を直ちに廃止することは難しかったため、この法律では尺や貫の単位をメートル原器に基づいて再定義し、メートル法による計量も公式に認めるという、尺貫法とメートル法が併存する形が取られました。この時、「尺貫法」という言葉が初めて公式に用いられるようになったと言われています。

その後、単位体系の国際標準への統一を目指し、1921年（大正10年）にはメートル法を基本とする改正度量衡法が公布されました。この4月11日は、度量衡記念日（メートル記念日）とされています。改正法は1924年（大正13年）7月1日に施行され、生活必需品の容器や包装のメートル化が進められました。

第二次世界大戦後、度量衡法は廃止され、1951年（昭和26年）6月7日には地方自治の理念を反映した新たな計量法（旧・計量法）が公布されました。この日は旧・計量記念日とされています。そして、1959年（昭和34年）1月1日、旧計量法の下でメートル法の完全実施が実現しました。ただし、土地や建物の面積表示における「坪」の使用については猶予が認められ、メートル法への完全な移行は1966年（昭和41年）4月1日まで待つことになります。

メートル法導入後も、学校教育や官公庁、軍部などでは次第にメートル法への移行が進んだ一方で、一般社会、特に商取引や日常生活においては尺貫法が依然として広く用いられ続けました。新聞における身長や体重、靴のサイズの表記も、完全実施前までは尺貫法が一般的でした。例えば、プロ野球選手の身長・体重表記は、1958年からメートル法への切り替えが始まり、翌1959年には全ての球団で完了しています。

メートル法完全実施後、法律を厳格に適用しようとする動きから、尺貫法を用いた一部の大工などが取り締まりを受ける事例も発生しました。これに対し、作家の永六輔氏が「尺貫法復権運動」を展開し、「鯨尺を作ったから逮捕に来い」と当局を挑発するなど、社会的な議論を巻き起こしました。こうした背景もあり、現在では「尺相当目盛り付き長さ計」として、「1/33 m」（鯨尺）や「1/26.4 m」（曲尺）といった尺貫法に相当する目盛りが付いた計測器でも、「メートル法の範囲内」とみなされ、合法的に販売・使用することが可能となっています。

なお、メートル条約が締結された5月20日は世界計量記念日とされており、日本においては1992年（平成4年）5月20日に現行の計量法（新・計量法）が公布され、翌1993年（平成5年）11月1日から施行されました。この11月1日は、現在の計量記念日と定められています。

伝統的な単位から国際標準への移行は、単なる技術的な変更にとどまらず、社会の慣習や文化にも影響を与えながら、長い年月をかけて進められた日本の近代化の一側面と言えるでしょう。

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