日本の十大発明家

日本の十大発明家（にっぽん/にほんのじゅうだいはつめいか）とは、日本国内で特に優れた功績を残した発明家や発見者を顕彰する事績を指します。特定の個人を指すのではなく、時代によって複数の選定が行われています。

選定の歴史

日本の十大発明家として著名なものには、主に以下の二つの時期における選定があります。

昭和初期の選定

1930年（昭和5年）と1939年（昭和14年）に、当時の代表的な発明家・発見者各10名が選ばれ、昭和天皇からの宮中賜餐（きゅうちゅうしさく）の機会を得ました。これは、国家がその功績を高く評価し、称えるものでした。

1930年（昭和5年）に宮中賜餐を得た発明家（一部補足）

- 鈴木梅太郎: 糠（ぬか）に含まれる成分の研究、後のビタミンB1発見・製造につながる研究。
- 杉本京太: 邦文（日本語）タイプライターの開発。
- 御木本幸吉: 真珠養殖技術の確立。
- 山本忠興: テレビジョンの研究。
- 密田良太郎: 水銀避雷器の発明。
- 蠣崎千晴: 牛疫ワクチンの開発。
- 二代目島津源蔵: 蓄電池（特にアキュムレーター）の改良・発展。
- 本多光太郎: 特殊合金鋼、特に強力な永久磁石鋼（KS鋼）の発明。
- 田熊常吉: 高性能ボイラーの開発。
- 丹羽保次郎: 写真電送方式（ファクシミリ技術）の開発。

1939年（昭和14年）に宮中賜餐を得た発明家（一部補足）

- 三島徳七: 新しい磁石鋼（MK鋼）の発明。
- 大河内正敏: ピストンリング製造技術の確立・改良。
- 岡村金蔵: 油母頁岩（ゆぼけつがん）から油を抽出する技術（乾留法）の研究。
- 梅根常三郎: 赤褐鉄鉱を選鉱する技術の開発。
- 棚橋寅五郎: 無機薬品の製造技術に関する研究。
- 安藤博: 多極真空管の発明。
- 浅尾荘一郎: 光電管の開発。
- 古賀逸策: 水晶振動子（水晶発振子）の研究・実用化。
- 岡部金治郎: マイクロ波発生装置（マグネトロン）の発明。
- 朝比奈泰彦: 薬用成分ビタカンファーの発見・研究。

1985年（昭和60年）の特許庁選定

1985年 4月18日の「発明の日」は、日本の産業財産権制度が100周年を迎えた記念すべき日でした。この記念事業の一環として、特許庁は新たに「十大発明家」を選定し、顕彰しました。

この選定は、通商産業大臣を委員長とする委員会の下、物理学者である茅誠司氏（東京大学名誉教授）をはじめとする学識経験者によって行われました。選定の基準は、技術的な革新性や産業分野への貢献度が高かったと考えられています。現在も、特許庁総合庁舎1階ロビーには、この時に選定された十大発明家を称えるレリーフが展示されています。

この選定では、特定の順位付けは行われておらず、特許・実用新案番号の若い順に記載されています。

1985年（昭和60年）に特許庁が選定した十大発明家

- 豊田佐吉: 木製人力織機（特許第1195号）。日本の近代繊維産業の発展に貢献した自動織機の礎を築きました。
- 御木本幸吉: 養殖真珠（特許第2670号）。世界に先駆けて真珠の養殖技術を確立し、日本の重要な産業となりました。
- 高峰譲吉: アドレナリン（特許第4785号）。生物学分野で世界初のホルモン結晶分離に成功しました。
- 池田菊苗: グルタミン酸ナトリウム（特許第14805号）。「うま味」の主成分を発見し、うま味調味料の工業化への道を開きました。
- 鈴木梅太郎: ビタミンB1（特許第20785号）。脚気の原因物質が糠に含まれることを発見し、ビタミン研究の端緒を開きました。
- 杉本京太: 邦文タイプライター（特許第27877号）。漢字かな交じりの日本語を印字するタイプライターを実用化しました。
- 本多光太郎: KS鋼（特許第32234号）。優れた磁力を持つ特殊鋼を発明し、世界的な磁石材料研究の権威となりました。
- 八木秀次: 八木アンテナ（特許第69115号）。高い指向性を持つアンテナを発明し、後の無線通信やテレビ放送に不可欠な技術となりました。
- 丹羽保次郎: 写真電送方式（特許第84722号）。静止画像を電気信号で送る技術（ファクシミリ）を開発し、電信技術の発展に貢献しました。
- 三島徳七: MK磁石鋼（特許第96371号）。KS鋼を凌ぐ性能を持つ磁石鋼を発明し、磁石材料の分野で世界をリードしました。

これらの選定は、日本の科学技術史や産業史において重要な役割を果たした発明家たちの功績を称え、その偉業を後世に伝えるためのものです。彼らの発明や発見は、日本の近代化、産業の発展、そして人々の生活向上に計り知れない貢献をしました。

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